大学での学びの集大成となる、大東文化大学文学部書道学科第20期の卒業制作展・文学研究科書道学専攻博士課程前期課程第19期の修了制作展が開催されました!
芸術に関わる者としては憧れとなる東京都美術館で2023年2月21日(火)から27日(月)までの7日間にわたり開催され、文学部書道学科54人、文学研究科書道学専攻博士課程前期課程4人、計116点の作品が展示されました。
卒業制作展 20年の歴史
文学部書道学科は国内初の書道専門学科として2000年(平成12年)に開設されました。 芸術として、学問として書を究める本学科。書作(制作)・書学(知識)だけでなく、文房四宝(筆・紙・墨・硯)や作品の表装や印など、書に関する知識を幅広く学修できる多彩な授業を展開しています。 毎年定員60人の学生が入学し、学科生の学習成果を発表する場として4年生の2月に卒業制作展が開催されるのが恒例となっています。
卒業制作展は第1回~11回までは銀座の東京銀座画廊で開催し、第12~19回までは東京都美術館の1階第1展示室で開催してきました。
記念すべき第20回の開催となる今回より、東京都美術館に入ってすぐのロビー階第1展示室に場所を移し、大盛況のうちに幕を閉じました!
運営の中心となるのは学生たち。20期生の皆さんにインタビュー
毎年卒業制作展は各ゼミの代表となるゼミ長たちが中心となって運営しています。
そこで今回は書道学科20期生の6人の学生の皆さんにインタビューさせていただきました!
卒業制作展を迎えた今の気持ちを教えてください。
興梠さん:私たちが2年生の時から新型コロナウイルス感染症の影響で、思うように行事が開催できないことが多く、最初は卒業制作展を開催できるかすごく不安でした。今日を迎えることができて、今はほっとしてる気持ちがすごく大きいです。この4年間のみんなの練習の成果がこの展覧会に出ているので、1人でも多くの人に見ていただけたら嬉しいなと思います。
川村さん:大学生活は新しいことに挑戦できた4年間でした。書いたことのない書体に挑戦したり、関わりのなかった友達とコミュニケーションを取ったり、入学前とは違う自分になれたように思います。大学でできた友達と一緒に、こういった大きな場所で展覧会ができたことが嬉しいです。
新井さん:ここで卒業制作展をできることに素直に喜びを感じます。自分は大学から新しく篆刻という分野を学び始めて、4年間で学んだ成果を出せる舞台があるということに感謝の気持ちでいっぱいです。
学生の皆さんが中心となって卒業制作展の運営をする中で、試行錯誤したことはありますか。
又場さん:運営に関わるうえで、同じゼミ長の仲間にいろんな面で助けていただきました。運営の仕事面に加え、メンタル面でも支えてもらい、そのうえで卒業制作展が開催できているんだと思うととても感慨深いです。
小林さん:私は作品の横に置いてあるキャプションという、作品の解説や誰が出品しているかなどの情報をまとめる役割を担当していたのですが、作る上で学科全員と関わることが多く、この仕事でなければこういった経験は無かったのかなと思うととても良い経験になったと感じます。
土肥さん:運営において会計を担当していたのですが、去年よりも展覧会の規模が大きくなったので、1人ではやりきれないことも多く、本当にみんなに支えてもらいながら準備を進めて来られたので、感謝の気持ちでいっぱいです。
今回出品されているご自身の作品について詳しく教えてください。
【創作】夢遠遊賦一節
興梠さん:中国の殷・周時代に⻘銅器に鋳込まれていた「金文」という文字です。私の尊敬する先生が金文を良く書かれていて、それに憧れて始めました。行草書であれば、字と字の間隔を繋げて書くことができるのですが、篆書は、一文字一文字 が独立しているので、余白の処理がすごく難しいんです。違和感のある空間ができないように、かつ字の元々の形を崩さないように考えながら書いていました。また、1本の線を引くときにも、表現が単調にならないように意識しながら書きました。
【創作】波音
川村さん:「波音」という字を書きました。淡墨という種類の墨で書いていて、色の淡さとにじみが特徴です。墨も自分で作り、初めての経験でとても勉強になりました。 水が生み出す動きの綺麗さ、波音が出す音の多様さが好きで、自分の名前に海という字が入っていることもあり、海に関連した「波音」という字を書こうと決めました。 篆刻も四角いものが多い中、今回の作品にちなんでしずくの形にしています。
実はこの作品、100枚ほど書いたのですが、最終的に選んだのは一番最初に書いたものなんです。 いろいろと考えながら何枚も制作していましたが、まっさらな気持ちで書く1枚目の大切さを感じました。私の素が一番出ている作品です。
【創作】龍章鳳姿
新井さん:展示している作品は、壁面に飾られている漢字や仮名といった書とは別で、主に篆書を印面に直接刻していく篆刻と呼ばれる作品になります。摸刻の中でも、古典をまねて掘っていく摸刻という方法と、摸刻で得た技術を駆使して印面を刻っていく創作という方法があるのですが、創作では字の入れ方や形、並びなどを考えながら制作しています。
僕の摸刻の作品は呉昌碩の作品を題材に制作しているため、創作は呉昌碩の使う技法に似せて作りました。篆書の中でも秦の始皇帝が文字統一をした小篆と呼ばれる字体からそれに近い時代の字体を呉昌碩が用いることが多く、それらの持ち味である足長に字を作る様からなるべく流麗に魅せることを念頭に置いて制作しています。
【創作】万葉集より二首「櫻の花」
又場さん:万葉集の歌を二首書かせていただきました。扇の形をした紙で書いた、扇面の作品となっています。 今の季節に合った、かつ自分の書きたい「恋」という言葉が書ける作品を選び、制作しました。 紙は自分で型枠を作成しています。上部の長方形の紙も、自分で作った扇面の紙に合わせて選びました。
扇面作品は、1本線を通したときに最終的に頂点で重なるような作品が多いので、傾きを合わせながら、扇の形に文字が沿うように書いていきます。 文字のバランスや空間を意識しながら制作しましたが、仮名の文字の作り方や紙面の納め方は漢字とはまた異なってくるので、それぞれの文字の形や空間の作り方を意識して書きました。 初心者の方が自分の作品を見て、こういう見せ方があるんだなと感じてもらうことで、この展覧会に何らかの印象を持ってもらえると嬉しいです。
【臨書】臨 王鐸
小林さん:これは私が高校生の頃から尊敬している王鐸という明時代の書家の方の作品です。卒業論文・卒業制作の両方で王鐸の作品を取り上げ、王鐸のことを深く学ばせていただいた4年間でした。
王鐸について書きたいという想いから、字体をまねて書く臨書も、字体を自身で考えて書く創作もどちらも王鐸の書法を生かした作品です。 自分の身長よりはるかに大きい3尺×8尺(900mm×2420mm)サイズで書くのが初めてだったので、文字のバランスを見て書くのにかなり試行錯誤しましたが、なんとか書き上げることができました。 卒業制作展で大きい作品を展示できたことはとても嬉しく、良い経験をさせていただいたなと思います。 大学1年生のころから卒業制作と論文は絶対王鐸の作品にすると決めていたので、やっとこの日を迎えられたという気持ちが大きいです。
【創作】万葉集より「うぐひす」
土肥さん:この「うぐひす」という作品は、季節の歌ではないのですが、万葉集の春らしい歌で、歌の中に「うぐひす」が出てくることから題名を付けました。紙を選ぶ際に偶然「うぐひす」という名前のものを見つけたのでこの紙を選びました。とても綺麗な鶯色で、作品の柔らかい雰囲気をより出せたように思います。上下ともに同じ詩文ですが、上部の漢字も春らしさを出したくて、この色の組み合わせにしました。墨が濃すぎると重たく感じてしまうので、色を調節したり、あえて擦れさせたりして、軽やかかつ上品な雰囲気を出すためにこの書き方をしました。この作品を通して春の暖かさを感じていただけたら嬉しいです。
若い人の中には芸術に触れることにハードルの高さを感じる人も多いように思います。ぜひ鑑賞経験の少ない方に向けて、作品鑑賞のポイントを教えてください。
新井さん:僕は落款(※作品の最後に書く筆者の署名のこと)の下に押す「篆刻」というものを見ていただきたいです。 篆刻の印の位置も、全体のバランスを見てどこに押すのか、また篆刻の印の中でもその白と朱のバランスを考えて作ったりなど制作者の想いが詰まっています。小さい世界ですが、そういうところも見ていただきたいなと思います。
又場さん:僕は仮名を中心に作品を制作していますが、中には白い紙だけではなく、美しい料紙(着色や文様、金銀の箔などの装飾紙)を使用した作品が多々あり、そこにも注目していただきたいです。また、さまざまな紙面構成の違いにも注目していただきたいです。こういった部分は初心者の方でも受け入れやすいのかなと思っています。
川村さん:作品のことをあまり知らなくても、おもしろいとか、すごいとかでも良いので何かを感じてもらうだけでも構わないと思います。私は誰かが自分の作品を見た時にそう思ってくれるだけでも嬉しいです!
皆さんに大東文化大学での4年間を漢字1文字で表していただきました!
興梠さん:感謝の「感」という字です。4年間を通じて先生や友達、家族にすごく支えられて書道ができていると改めて実感したので、自分を支えてくれている人に感謝の気持ちを忘れずに、これからもいろんなことを頑張っていきたいという思いからこの文字にしました。
川村さん:私はご縁の「縁」という字を書きました。書道学科の人やバイトの人など、いろんな人に会っていろんなことを知り、そこから世界が広がっていった4年間だったので、人との縁は大事だなと思えたのでこれを選びました。
新井さん:「真」という字を書きました。自分の名前に入ってるというのも理由の1つなのですが、4年間、ゼミ長だけでなくいろんな経験を通して、まごころや誠実さを持った人になれていたら良いなと思い、この字にしました。
又場さん:僕は尊敬の「尊」という字にしました。4年間を通して尊敬できる先生方や友人との尊い出会いというのを大事にしたいなと思いこの字を書きました。
小林さん:私は「継」という字を書きました。卒業後も、第20期生のみんなで書道文化・手書き文化を継承していく人材になれるように、という気持ちでこの字を選びました。
土肥さん:私は「縁」という文字です。私は大学で書道を本格的に始めたのですが、大学に入学するまでにも、入学してからも本当に素晴らしい先生方と出会い、学ばせていただきました。このご縁がなければ今に繋がっていなかったと思います。
学生の皆さん、ありがとうございました!
新型コロナウイルス感染症の影響で授業形態の変更を余儀なくされるなど、慣れない形で学ぶ時間も多かった20期生の皆さんですが、それぞれの作品が並んだ展示会場は壮大で、一人ひとりの想いが詰まった作品ばかりでした。準備や作品の制作、本当にお疲れ様でした!
書道学科のYouTubeチャンネルにて、今回の卒業制作展の会場風景を公開しています。
ぜひあわせてご覧ください!