9月30 日(月)、大東ウーマンズ・スポーツ・アライアンス(DWSA)の特別企画としてアーティスティックスイミング元日本代表・青木愛さんとの座談会「オリンピアンから学ぼう!」が開催されました。DWSAアドミニストレーターでもある工藤保子准教授(スポーツ科学科)が司会を務め、運動部に所属する女子学生を代表してテコンドー部の西後実咲さん(スポーツ科学科4年)、スケート部主将・富田裕香さん(スポーツ科学科4年)、女子サッカー部主将・髙玉彩乃さん(スポーツ科学科4年)の3名が登壇。アスリートとして、ひとりの女性として、青木さんがどのように競技と向き合ってきたのか、ご自身の経験を語るとともに、学生たちからの質問に対しても真正面から答えてくださいました。
練習に明け暮れた学生時代
工藤保子准教授(以下、工藤):青木さんとアーティスティックスイミング(2018年よりシンクロナイズドスイミングから名称変更 以下、AS)との出会いについてお聞かせください。
青木愛さん(以下、青木):生後10か月の頃に地元・京都のスイミングスクールへ母親に連れてこられて、それ以来ずっと水の中です。たまたまASのクラスがあるスクールだったこともあり、お姉さんたちに憧れて自分もやってみたいと思うようになりました。
工藤:中学2年生の頃からは日本代表のヘッドコーチ・井村雅代さんが代表を務める「井村シンクロクラブ」に所属されましたが、その頃はどんな生活を送られていたのでしょうか。
青木:授業が終わったらすぐに京都から大阪のスイミングスクールに電車で通う毎日で、練習が終わるのが夜11時頃のため、両親が迎えに来てくれていました。試合前は学校を早退して練習に行くこともありました。9、10月がオフシーズンにあたるのですが、それでも週に5日は練習がありました。高校2年の頃、先輩との関係に悩んで、無断で練習を休み、友達と遊んでいたのですが、全然楽しくなかったのをおぼえています。あらためてASが自分にとって大きな存在なんだと気づかされましたね。
工藤:びわこ成蹊スポーツ大学へ進まれ、北京五輪に出場。大学では中・高の保健体育の教員の免許も取得されました。競技と学業との両立、苦労も多かったのでは。
青木:これまでと同様に大学でもASの練習を中心にした生活でしたね。五輪に向けた合宿が始まると、大学に通うことが難しくなり、1年半休学をしました。教員免許は入学する前からの井村先生との約束だったのでくじけそうになりましたが、諦めずに取得しました。
女性アスリートとしての身体管理
工藤:食事や栄養の摂り方などについても伺っていきたいと思います。ASは運動量も激しく、選手の皆さんがすごく食べるイメージがありますが。
青木:ASは浮力を得るため適度に脂肪をつける必要があります。私は痩せやすい体質だったので、栄養士さんから太るよう指導されていました。ですから寝る直前にお餅を5個食べるのが日課になっていて…。減量中の選手と相部屋になった時は大変でした(笑)。
工藤:寝る前にお餅ですか!本学の陸上長距離の女子学生からしたら、うらやましく思えるかもしれませんね。
青木:食べる苦しみ、食べられない苦しみ両方ありますよね。
工藤:続いて、女性特有の悩みについても伺えればと思います。生理が来ると練習に集中できないほどの痛みに襲われる学生も多くいるようです。生理との付き合い方について青木さんはいかがでしたか。
青木:私も生理痛がひどくて、ずっと悩まされてきました。プールに入るとお腹が冷えて余計痛くなるんですよね。だからといって練習を休むわけにもいかなかったので、とにかく練習に集中して痛みを忘れるようにしていました。薬を服用していましたが、ずっと使い続けるのも体に良くないとわかっていたので本当につらい時だけ飲むようにして乗り越えていました。
ケガによる躓(つまず)きと五輪への想い
工藤:それではここで、会場の学生からの質問にご回答をお願いしたいと思います。
学生:大学時代、恋人はいましたか。
青木:お付き合いしている時もありました。日本代表として合宿生活を送っていた頃だったこともあり、あまり会えませんでしたが、話を聞いてもらえる相手がいることは心強かったですね。
学生:練習が休みの日はどのように過ごされていたのですか。
青木:オフの日はひたすら家で寝ていましたが、それでも感覚が鈍らないよう水に入る時間を設けていましたね。
工藤:20歳の時に日本代表に初選出されますが、ケガを理由に世界水泳への出場を辞退されます。ケガなどの逆境をどのようにして乗り越えられてきたのでしょうか。
青木:肩に水が溜まって腕が上がらなくなってしまいました。本当にくやしかったのですが、井村先生から辞退を勧められました。五輪に出場するという夢のためにもここは我慢する時だと。あのケガがあったからこそ、五輪への気持ちがより強くなりました。
もっとパフォーマンスを上げるためには?
学生:パフォーマンスが上がらないことが続く時などは、どうやってモチベーションを立て直していましたか。
青木:不調の時は落ちるところまで落ちる。とことん落ちたら最終的な大きな目標に向かって一日一日の小さな目標を設定していくようにしていました。
工藤:団体競技では目指す方向が違う仲間との向き合い方に悩んでいる女子学生もいるようです。
青木:まずは時間をかけてお互いの考えや目指す方向を再確認することが大切だと思います。相手が何に対して不満があるのか、じっくりと耳を傾けてあげてほしいですね。
引退後のキャリアと自身の役割
工藤:現役時代に引退後のキャリアやどうやって競技と関わっていくか、考えることはありましたか。
青木:現役の時は大学を休学していましたし、引退後は学生に戻るつもりでいましたので、まずは大学に復学しました。北京五輪後に引退して6年間コーチとして指導を行っていたのですが、芸能のお仕事との両立がだんだん難しくなっていって…。もちろん指導者として選手を育てたいという夢はありますが、必ずしも指導者という道だけが競技との接点とは限りません。解説など「伝える」立場で競技と関わり、普及のお手伝いをすることも大切な役割だと思います。
工藤:最後にこれからの目標を教えてください。
青木:東京五輪でASの魅力を発信することができればと思っています。本日集まってくださった女子学生の皆さんにはスポーツで培った経験を今後の人生に活かしていってほしいですね。学生の皆さんが競技に集中できるよう、大学側も全力でサポートする体制を整えてあげてほしいと思います。
今回の座談会はスポーツ庁主催第2回パブコン「もしあなたがスポーツ庁長官だったら~」(一般部門)で本学教職員・学生チームが最優秀賞「長官賞」を受賞したことから、開催されました。