政治やカルチャーをはじめとした幅広い分野から「今注目が集まっているトピック」をピックアップし、テーマと関連の深い専門家に、それぞれの視点から考察・解説をしてもらう企画「先生に聞いてみた!」。
今回のテーマは、日本でも問題視されている「オーバーツーリズム」。教えてくれたのは、歴史文化学の専門家である野瀬先生、財政学の専門家である塚本先生です。
本記事では、そんなふたりの先生のクロストークの様子を、前後編に分けてお伝えします。オーバーツーリズムの背景や問題をまとめた前編に続き、後編では、オーバーツーリズムの解消に向けてどんなことができるかを教えていただきました。
インタビュープロフィール
野瀬元子 先生
文学部 歴史文化学科 教授
専門分野:観光歴史学、観光学
塚本正文 先生
社会学部 社会学科 教授
専門分野:財政・公共経済、観光政策
オーバーツーリズムはどうしたら解消できる?
オーバーツーリズムを解消し、「持続可能な観光」を実現するためには、どんなことができるのでしょうか?
野瀬先生:「観光は地域とそこに住む人々の理解のうえに成り立つもの」ということをしっかりと認識し、そこに配慮しながら施策を展開することが重要です。例えば、観光ルートを考えるにあたっては通勤・通学路を避けたり、住民理解を推進する、または住民の声を聞く会合を定期的に開いたり、地域の生活に関するデータの収集・分析を行ったりといった取り組みが考えられます。
また、観光客への啓発活動も欠かせません。観光客が落ち着いて情報に触れられる宿泊施設をはじめ、さまざまな場所、方法で、地域の実状や求められるマナーなどを発信していく必要があるでしょう。
国内外の事例から明白になっているように、住む人を蔑ろにするやり方では、持続可能な観光は実現できません。実際に、近年の京都や鎌倉では、すでに「住民優先」の姿勢を打ち出しています。
塚本先生:それから、人の数をうまくコントロールする工夫も必要です。旅行客が過度に集中する時間、場所、時期をつくらないために、例えばナイトツアーを企画したり、オフシーズンに訪れるメリットを創出したり、「混雑状況を見える化する仕組み」を導入したりといった手法が考えられます。
また、「その観光資源に対して興味がない人(安価だから訪れている人)」のアクセスを抑えるためには、適切な価格を検討することも効果的。今まさに活発な議論がなされている「富士山の入山料」がその例ですね。これまで日本政府や地域社会が負担していた「観光資源の保護」や「環境整備」などの経費を観光客に自己負担させることにもつながるので、合理的な方法といえるでしょう。
これと同時に、地域住民などへ割引を行う「二重価格」や観光税を設定することも、有効な対策のひとつとして挙げられます。
オーバーツーリズム解消に関わる歴史文化学科の取り組みって?
野瀬先生が所属されている歴史文化学科では、オーバーツーリズムの解消につながる「学生ガイド」の取り組みを実践されているそうですね。
野瀬先生:はい。2022年から、落合義明先生の研究室が主催して、「学生ガイド企画」を実施しています。学生が特定の地域の歴史を調査し、その成果を一般募集した参加者に対してガイドする取り組みです。2022、2023年は東松山キャンパス周辺の「武蔵武士」ゆかりの地を、そして2024年は川越市を舞台に選択しました(2024年12月14日(土)開催予定)。
川越市は、蔵造りの街並みが著名な観光地となっており、すでに国内外から多くの方々が訪れています。そこで私たちは、まだあまり知られていない市内周辺、具体的には「笠幡地区」「府川地区」「古谷地区」の史跡と「河越館跡」に着目してガイドを行う計画を立てました。
過去のガイド企画では、参加者から新しい出会い、発見があったことに対する喜びの声が多数寄せられています。今回の取り組みも、混雑による問題が顕在化している川越市が「これからの観光のあり方」を検討するうえで、きっと貢献できるものになると信じています。
クロストークを終えて
今回はオーバーツーリズムをテーマにそれぞれの立場からお話しいただきましたが、最後に本日の感想をお聞かせいただけますか?
塚本先生:野瀬先生の回答は、「過去の延長線上に今があること」を意識した、歴史文化学の先生らしい内容でしたよね。社会学では「今起きている現象」を見るのに対して、もう少し長いスパンで考えている。さらには、ご専門である観光学の基本にもうまく触れられていて、読み応えのある内容になったのではないかと思います。私も勉強になりました。
野瀬先生:社会学は私の研究内容に深く関わる分野であるものの、大学組織の構成の都合上、塚本先生とは関わる機会があまりありませんでした。今回、塚本先生と同じテーマで対談できたのは、とても有意義な交流だったと感じています。これを機に、今後も積極的に意見交換ができたらうれしいです。
野瀬先生、塚本先生、本日はありがとうございました!