埼玉県のスポーツ振興に係る現在の状況、これからのアスリートの育成や、それに伴う指導者育成において目指すところなどについて、公益財団法人埼玉県スポーツ協会専務理事 久保正美様にお話を伺いました。
□Profile
田中 博史
大東文化大学 スポーツ・健康科学部 スポーツ科学科 教授
「地域スポーツクラブ活動指導者サーティフィケートプログラム」監修者
久保正美
公益財団法人埼玉県スポーツ協会 専務理事
スポーツ科学を包括的に学べるカリキュラムで、 子どもたちの豊かな人間性を育み、 パフォーマンスを高める指導者を目指してほしい。
田中 本プログラムが誕生したのは2022年度※1。当時、中学校の部活動指導において、専門外の競技、あるいは体育以外の教員が指導を任されることが多々あり、教員が疲弊しているという声が多数耳に入っており、本学のリカレント教育の中で指導者の質的向上を図れないかというのが本プログラムの着想です。
久保 日本のスポーツの歴史を見ると、学校の部活動が牽引してきた部分が大きいんです。埼玉県では現在、中学校の運動部の数は5,500を超え※2、専門外の教員が顧問を務めることも多いという現状がある一方、生徒たちの競技レベルが上がったことで、指導法に不満を持つケースも。この課題に対して、指導者を対象にした本プログラムはとても有意義だと思います。
田中 2022年には、スポーツ庁から中学校教員の働き方改革などの観点から、中学校部活動の地域移行に関する通達がなされました。これが実現すると、これまで教員が担っていたスポーツ指導を地域の方が担うことになるため、本プログラムの受講対象者もスポーツクラブの指導者まで広げています。
久保 中学校の部活動の地域移行については、今後地域クラブ活動に移行するのか地域の指導者にご協力いただきながら学校の活動として残るのかわかりませんが、いずれにしても、スポーツ科学や発達段階を踏まえた指導ができる指導者の育成は急務です。
幅広いスポーツ科学の知識を、即現場で活かせる実践力に
田中 本プログラムの特色は、スポーツ科学を包括的に学び、かつ、中学生の年代のスポーツ指導に必要な知識について具体的に解説している点にあります。また、各科目、オンデマンド形式の講義で身に付けた知識を、レポートでご自身のコーチングの現場に落とし込むかをまとめることで、即現場で実践できるよう工夫されています。
久保 私もかつて部活動の指導者でしたが、教員も生徒たちに最先端の指導をしたいと思っているんです。本プログラムでは、自己流では身に付かない医学、生理学、心理学などの観点からもスポーツを学ぶことで指導の幅はぐっと広がると思います。
ずっとスポーツを続けたいと思える、スポーツの楽しさを伝える指導者に
久保 本プログラムでは、日本スポーツ協会が掲げる「プレーヤーズセンタード」の考え方を遵守した指導者の育成に取り組んでいることにとても共感しています。プレーヤーを支えながら、指導者や保護者も成長していくことが大切ですから。
田中 この考え方では、指導者はプレーヤーの学びを最大限に高めることが要求されます。中学生年代ではスポーツ参加に対して多様な考えを持っています。その多様性に対応すべくまずは指導者自身が学ぶことが重要です。その上でプレーヤーとしっかりコミュニケーションを図り、プレーヤーの学びを最大限に高めることができる指導者が今は必要です。
久保 今、まさに指導者にとって変革の時だと思います。中学生の発達段階における特性を理解し、自信を持って指導できるよう、ぜひ本プログラムを受講してみていただきたいです。これまでの経験をもとに新しい指導法を学ぶことで、さらに充実して指導ができるはずです。
田中 本プログラムで、これまでのご自身の指導法について見直すことや確信を得ることができると考えています。生徒たちが高校や大学に行っても、ずっとスポーツを続けたいと思ってもらうことが中学生年代のスポーツでは重要ではないでしょうか。多くの皆様の受講をお待ちしています。
※1:2022年度の名称は「中学生部活動指導者サーティフィケートプログラム」、2023年度から現名称。
※2:(公財)日本中学校体育連盟HP 「加盟校調査」より