Class & Seminar report

担保法A・B

山口志保先生

先生の講義「担保法A・B」は、どのような内容の授業ですか?

「担保法A・B」は3年生対象の授業で、民法の中の民法総則、物権法、債権法という3分野を学んだ次のステップに位置する授業です。民法などの法律科目は、基礎的なことを早い段階で学び、それをベースに応用していく、つまり基礎がないととてもじゃないですが理解できないものなんですね。そういう基礎となる科目を、私たち教員は“積み上げ科目”と呼んでいるのですが、「担保法A・B」は、そうした民法の積み上げ科目の最頂点にあたるものだと言えます。


具体的な内容としては、債権法の中の人的担保と、物権法の中の担保物権という分野を扱います。担保というのは、簡単に言えば、将来生じるかもしれない損害に対して、それを補填すること、あるいは補填するもののことです。例えば、銀行がAさんに融資をするとき、Aさんは銀行からお金を借りるという契約を結びます。この時、Aさんには、借りたお金を返す義務が生じるわけですが、もし返せないとなると、貸し手である銀行は困りますよね。そこでAさんから保証人や財産などを担保として提供してもらうことで、債務(契約した内容を実行する義務)の履行を確保し、債権(契約した内容を実行してもらう権利)を守る、つまり支払ってもらえるようにするというものです。このように担保を設けることで、お金は借りやすくなります。この、担保には人的担保と物的担保という種類があります。人的担保というのは、人が保証人になることです。その“保証人になる”ということは、何を意味するのか。つまり、気安く友達の借金の保証人になったはいいけど、友達が返済できないときは、その代わりに保証人が借金の返済をしなくてはならなくなるのは、なぜかといったことを「担保法A」で学びます。


一方「担保法B」では、物的担保を扱います。民法の中には物権法という分野があると最初に言いましたが、この物権というのは読んで字のごとく、物に対する権利のことで、この権利は世の中のすべての人に主張することができます。ただ、誰にでも主張できる分、法律で定めたものしか認められていません。そういう特色を持つ物権の中には、細々とした権利があって、そのうちのひとつに担保物権というものがあります。これがいわゆる、お金を借りる時に担保物を提供しなさいと言われるものです。先ほどのAさんが銀行からお金を借りる例で言えば、Aさんがお金を借りる際に担保物を提供していた場合、お金を返せなくなったときには、裁判所の手続きを経て、その担保物を競売にかけます。その売った代金によって、お金を貸した人(この例では銀行)にお金を返すという形になるのが、基本的な担保物権です。これは民法で定められているものです。ただ、今は、民法で定められていない物権も担保物権に関しては出てきています。というのもお金を借りるのは個人に限りません。企業も資本活動を続けるための資金として、何億、何十億、何千億というお金を銀行から借りますよね。そのように資本主義が発展して、取引が複雑になるにつれて、予定していなかった物権、物的担保の在り方も出てきています。そうしたことも「担保法B」では学んでもらいます。


今はごく触りだけを話しましたが、担保法の内容はそれぞれ枝分かれするように、いろいろな権利があって、非常に細かく場合分けをして学んでいきます。また担保法は、関わる人間が1対1ではなく、お金を借りる本人、貸し手、保証人と3者いるわけです。例えば、お金を借りた人が返さなければ、保証人が弁済することになるけれど、その後はどうするのか。そういう行方を民法は、ある程度定めています。その定められている行方に関して、学生に論理的に理解してもらおうと、積み上げていく形で学んでもらっているのです。

講義を進めるうえで、工夫されていることはありますか?

ひとつは、空白部分のあるレジュメを用意して、説明しながら空欄を埋めてもらっています。それまでは黒板を板書する形だったのですが、私が黒板に書く間、学生は待つことになりますし、黒板に書き終わって私が説明を始めると、今度は学生が一生懸命に板書をして、説明を集中して聞くことができません。ですからレジュメを用意して、説明を聞きながら空欄を埋める形にすることで、学生に集中して聞いてもらっています。


それから具体的な問題を出して、それについて学生自身がどう考えるかということもしています。例えば、最近扱った担保物権のうち典型担保物権にあたる“質権”では、こういう問題を出しました。Aさんが友達Bさんにお金を貸したら、Bさんがお金を返すまでの担保としてノートパソコンを渡しました。Aさんには、それを質物として持っている権利があるのですが、ある時、Bさんがまだお金を返していないけれど、レポート作成のためにノートパソコンを使いたいから一時的に返してほしいと言ってきて、Aさんが返したとします。質権というのは、質物をずっと持っていないといけないのですが、返してしまった場合、Aさんの質権はなくなるかどうか。つまり、Bさんがレポートを書き終わったら、Aさんは「ノートパソコンを返して」と言えるかどうかということですね。これはAさんとBさんの間での話なので、返却を要求することは可能です。しかし、もしBさんが嘘をついていて、新たにCさんにお金を借り、その担保にノートパソコンを渡していたとしたら? こんなふうにシチエーションごとに質権の在り方を考えてもらい、理解を深めてもらっています。

では「担保法」を学ぶ意義とは、何だと思われますか?

担保法は、お金の貸し借りに関わる大切な法律ですから、金融関係に就職する人はもちろん、企業で働く人にも役立つ知識だと思います。また、よく「人にお金を貸したら、あげたものと思いなさい」と言われますが、その理論も最終的には担保法に繋がっていると言えますし、民法全体とも関わります。お金を貸すと、貸した方は返してもらう努力をしなければなりません。もし10年間、貸したまま放っておいたら、時効となって返金を要求できなくなるからです。ところが少しずつでも返金してもらっていれば、その時点から10年間と時効期限は延びます。ですから貸した人は、「返してね!」と言い続ける“勤勉な債権者”でなければならないのです。担保法を知っていれば、そういうまずい状況にならないために何をすべきかがわかると思います。また、法律の中でも民法は、お金の貸し借りや企業の取引など、私たちの生活のさまざまな事柄に深く関わっています。つまり法律を学ぶことで、社会の仕組みを理解できるようになるんですね。ただ、初めて法学を学ぶ大学1年生は、社会のことをほとんど知らない状態ですから、法律を理解することが簡単ではありません。そういうこともあって、法学部では1、2年生のための“導入教育”を設けています。

“導入教育”とは、どういうものですか?

最初に、法律は“積み上げ科目”だと言いました。そのため、本学では基礎を積み上げていくカリキュラムを用意しているのですが、それでもまだ足りないだろうということで、基本的なことを反復して身に付ける“導入教育”を、2002年から取り入れました。法律学科で最初にスタートしたのは「現代社会と法」という少人数クラスの授業です。これは憲法・民法・刑法の基礎を学ぶ前に、まず法学とは何かということで、法律用語の特殊性などを学んでもらい、その後、1年生の専門科目の復習をしていきます。毎回、小テストを行うことで、学生には復習する習慣や机に向かう習慣を身に付けてもらいます。学習には、知らないことを学ぶ楽しさもありますが、知っていることを学んで「知っている」と思える喜びもあるので、復習することで得られる喜びが、学生の向学心につながればという狙いもあって教えています。また、多くの学生は文章を書くことが苦手なため、試験で何かについて論述することもままなりません。そこで「文章表現法」という科目も設け、1、2年生に学んでもらっています。他に「基本法学概論」「法学(法律学入門AB)」「民法入門」といった導入の科目を用意し、とにかく懇切丁寧に教育することを心がけています。私たち法学部の教員は、ダイヤの原石を探すように、伸びようとしている学生や伸びるものを持っているのに、その方法がわからない学生に対して、できるだけ多くのチャンスを与えたいと思っているのです。

この内容は大東文化大学メールマガジン2012年12月号において配信した内容です。
そのため、他の授業ゼミ紹介ページと原稿テイストが異なります。

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