グリーン(環境)・デジタル(IT)分野を中心とした昨今の飛躍的技術革新は、10~20年後の日本が持続可能で知識集約的な社会へと進化していく上で明るい材料となっている。一方で、2010年代に約120万人で推移していた全国の18才人口は、2018年から減少トレンドに入り、2028年に107万人(2018=100と指数化すると2028年=91)、2033年に101万人(同86)、2038年に87万人(同74)と20年間で25%近く減少すると予想されている。日本の私立大学は、直近(2020年度)でも全体の31.0%が入学定員割れ、36.3%が赤字決算(基本金組入前当年度収支ベース)の状態であり、将来の見通しは更に厳しいと見られている。本学は、2021年度は定員を上回る入学者を確保し、2020年度決算(学園計, 基本金組入前当年度収支ベース)では黒字を計上しているが、先行きは決して楽観できないと思われる。
次節で中長期計画の具体的内容(各論)を議論する前に、本学が創立110周年を挟む今後10~20年間に直面すると思われる総合的課題として、以下の(1)~(5)を指摘しておきたい。
- (1)学士課程における学生募集面の課題への対処
- (2)オンライン技術の活用とデジタル変革(DX)への対応
- (3)大学院、研究所の改革
- (4)キャンパス問題の検討
- (5)財政基盤の確保
上記のうち、(1)(3)(4)(5)は『DAITO VISION 2023』でも取り上げられている懸案であるが、いま一度論点を整理しておく。
(1)学士課程における学生募集面の課題への対処
2010年代前半、新就職氷河期(2009~2013年)による理系人気の高まり、東日本大震災(2011年)を契機とした外国人留学生の減少、尖閣問題(2010~12年)を発端とした対中関係の悪化などを背景として、本学の入試状況は厳しい局面を迎えた。いくつかの学科で定員割れが連年化するとともに、大学全体の入試倍率(志願者数/合格者数, 推薦入試含む)も2014年度に1.93と2倍を割り込む事態となった。その後、大規模私大に対する定員管理厳格化(2016~18年度)の影響で首都圏有力私大の入試が難化し、併願需要の増加など正の波及効果によって中堅私大の入試状況も好転することとなった。学部学科間の定員調整も相まって、本学でも2010年代前半のような定員割れは解消し、2015年度に2.12だった入試倍率も、2018年度の4.06へと上昇した。
ただし、有力私大の定員管理厳格化が中堅私大の受験者数に及ぼす波及効果の規模は限られており、少子化による大学進学者減によって、いつかは相殺されることが予想される。本学の入試倍率も、2018年度の4.06をピークに2019年度3.79、2020年度2.63、2021年度2.26と徐々に下降しており、学科レベルでは、2018年度には全20学科で入試倍率が2倍を超えていたのが、2021年度には8学科で入試倍率が2倍を割り込んでいる。
定員割れが複数年続き、いったん「全入」の評判が生じると、修復が非常に困難になるケースが多い。手遅れになる前に、各学科で受験生・高校への情宣強化、カリキュラムの検討・更新、進路(就職)指導の拡充などを進めることが重要である。また、学科単位の対応での定員維持が困難な場合には、学部内または学部学科を超えた定員調整・再編も検討する必要がある。
(2)オンライン技術の活用とデジタル変革(DX)への対応
2020年春からの新型コロナウイルス感染症拡大期において、同時双方向形式・オンデマンド形式などのオンライン授業は、本学における学びを維持するための手段として大きな威力を発揮した。1年以上にわたる様々な試行のなかで、オンライン授業特有の利点(学生が自分のペースで学習しやすい、心身上の問題で通学が困難になった場合も学習が継続できる等)とともに、限界(実技・実習などの指導が困難、受講者全員の一体感が得にくい、授業外の交流機会が限られる等)も明らかとなってきた。これらの知見をふまえ、今後も対面・オンライン授業双方の良さを活かした教育の可能性を追求していく必要がある。具体的には、学生のキャンパス移動負担の軽減、学生の多様な学びへの支援(補充教育、障がい学生対応等も含む)、高校生の先取り履修の促進、社会人への学びの機会提供などが考えられる。
また、授業以外でも、教務ガイダンス、学生支援・キャリア支援(学生生活に関する啓発・情宣、ダブルスクールなど)、学生受け入れ(入試広報・高大連携・入学前教育など)に関連し、オンライン技術が有用となる場面が多数存在すると思われる。その他、FD・SD活動、研究、地域連携・社会貢献、国際交流など、教育以外の様々な分野においてもオンライン活用を積極的に支援し、大学全体の便益増加を図っていく。
コロナ禍を機に普及が加速したウェブ会議・動画配信等は、ICT(情報通信技術)の応用の一部に過ぎない。5Gのような高速大容量通信が普及するなかで、商取引、金融・保険、医療・福祉、行政手続など幅広い分野にICTが浸透し、オフラインとオンラインの世界が融合していくことが予想される。ICT、データ等に基づき新しい価値を創造していくデジタル変革(DX)が、今後の日本の重要課題となり、このようなデジタル変革に対応できる人材の養成が、大学にも求められるようになると思われる。本学においても、初等中等教育での情報教育内容に配慮しつつ、学生がデジタル社会に求められる素養(基本的情報知識、データリテラシー、批判的思考力など)を着実に身につけ創造性を発揮できるよう、教育内容を更新していく必要がある。あわせて、デジタル化対応の教育に関する環境整備、教員への研修・FD等の拡充なども検討・推進していく必要がある。
(3)大学院、研究所の改革
本学が2016年度に受審した公益財団法人大学基準協会の認証評価において、大学院の4研究科7課程(前期課程3, 後期課程4)が「収容定員に対する在籍学生数の比率が低いので改善が望まれる」との指摘(努力課題)を受けた。その後、前期課程の入学定員を削減するなどの対応策をとってきたが、2021年度現在、上記4研究科の4課程(前期課程1, 後期課程3)で収容定員充足率が前回受審時を下回るなど、厳しい状況が続いている。2010~20年の約10年間、私立大学の大学院(前期課程)入学者は人文科学系で33%、社会科学系で27%減少しており、文系大学院の定員充足率向上には逆風となっているが、研究科間の連携強化など、打開策を引き続き探る。
大学附置研究所、学部附置研究所についても、所蔵資料の相互利用、研究所間の交流促進など連携強化により、研究機能の拡充や特色ある研究の創出を図る。予算細分化を防ぐため、複数の研究所による予算執行の協調(<例>プロジェクトの共同実施、シンポジウムの輪番開催等)も推進し、必要に応じて研究所の再編についても検討を行う。
(4)キャンパス問題の検討
卒業時の学生アンケート(2014年3月~18年3月)によれば、4年同一キャンパスである国際関係、スポーツ・健康科学(以下国際、スポ健と略)を除く6学部の卒業生の約6割が「1・2年次と3・4年次で勉学環境が変わるのが負担でしたか?」との設問に「そう思う」又は「少しそう思う」と回答している。また、国際・スポ健を含む全卒業生の約7割が「入学から卒業までを同一キャンパスで学ぶ方がよいと思いますか?」との設問に「そう思う」又は「少しそう思う」と回答している。同一キャンパスでの4年制一貫教育は、学年を超えた縦のつながりを維持しやすく、学生指導・キャリア支援などの観点からも利点が多い。これらの理由から、「4年制一貫教育(同一学部同一キャンパス)の追求」という目標については、『DAITO VISION 2023』に引き続き、新たな中長期計画でも維持する。
ただし、東京23区内のキャンパスにおける収容定員増は、少なくとも2018~27年度の10年間は法律(23区規制)により認可されず、現在の板橋キャンパス(収容定員4,600名)で4年制一貫教育を行えるのは1学年最大1,150名までとなる。(国際・スポ健を除く6学部の新入生2,300名全員について板橋での4年制一貫教育に移行させることは現行規制上できない。) また、今後23区規制が撤廃され、板橋キャンパスの収容定員増が制度上可能となった場合であっても、実際に今以上の学生数を受け入れるためには、板橋キャンパス周辺での校地拡張が大きな課題となる。
一方、校地・校舎の面積や施設の細部まで規定した大学設置基準に関しては、時代の変化(とくにオンライン技術の進歩)に即した形での弾力化を求める意見が中教審・教育再生実行会議等でも出されている。対面授業を主体とした現在の教育活動のなかにオンライン授業の導入が進むことによって、必要とされる教育施設の規模や機能も見直される可能性がある点にも留意しておく必要がある。
板橋・東松山ともに、今後10~20年のうちに大規模改修(建替え)が必要となる校舎・施設が存在している。キャンパス整備の将来構想は、4年制一貫教育や両キャンパス間の定員配分の問題とも密接に関係するため、大学設置基準の改正や23区規制の解除、遠隔授業の制限緩和や学生募集環境などの外的動向と、学内における学部学科再編の検討状況を見極めつつ、板橋と東松山の両キャンパスの定員最適化と有効活用の観点から、予断を持たず検討を続けていく。
(5)財政基盤の確保
上記(1)で述べたように、少子化の影響で本学の学生募集環境は年々厳しさを増しているうえ、定員超過率に関する規制の厳格化により、学納金収入の増加は容易には見込めなくなっている。一方、上記(2)(4)で述べたデジタル変革への対応や施設補修・整備等には長期にわたって相応の支出が必要であり、本学の財政は構造的に支出超過(赤字)に陥りやすくなっている。本学の教育・研究の質を長期にわたって維持し、社会に対する責任を果たすために、財政基盤を持続可能な状況に保つことが極めて重要といえる。
財政基盤の確保のため、外国人留学生・社会人など受け入れ学生層の多角化、補助金・寄付金等外部資金の確保など収入増に努めるとともに、中長期的な視点に立った支出の見直しも並行して進めていく必要がある。なお、『DAITO VISION 2033』の実現をはかるために必要となるより詳細な財政計画に関しては、現行の中長期財政計画の検証を行ったうえで、今後策定を進めていく予定である。