Report

2015年度 研究班活動報告

言語学・文献学研究班

代表者
猪股 謙二

「述語動詞と項構造に関する個別的・普遍的な言語学的特徴」

今年度の研究活動は3名の研究員が専門とする言語について述語動詞とその項(Argument)が織り成す統語的、意味的、形態論的な言語学的特徴を論究することが目標であった。3名の研究員の研究対象である言語は異なっている為にメタ言語的な視点より述語と項構造の多様性の中に潜む普遍性を追求することにより個別言語を超えた人間言語の本質的特徴を動態的に考察することを目標とした。現代の類型論者M.Haspelmath(2001)が示した、SAE(Standard Average European)にみられる言語的特徴を強い系譜関係をもたない言語間において観察することが目標である。研究員の対象言語は、小池剛史研究員(古英語、中英語)、武藤慎一研究員(古典ギリシャ語、シリア語)、猪股謙二(英語、フランス語、ロシア語)である。Cf. Martin Haspelmath The European Linguistic Area: Standard Average European. In Language Typology and Language Universals. Berlin: Walter de Gruyter. 2001.pp.1492-1510.

小池研究員は、古英語、中英語期の説教集を文献資料とし真摯に読み解き特に属格名詞句の意味機能、語順、形態およびその代替構造としてのof句の用法を通時的に考察した。資料として、古英語説教集の言語を、それを初期中英語に改訂したものとを比較することにより、属格名詞に関わる語順、分析的傾向の拡張による属格名詞の縮小化、属格名詞の意味的特殊化による通時的変化をより緻密に記述・考究した。

武藤研究員は、新約聖書のギリシャ語原典からシリア語への翻訳を文献学的に詳細に調さし、アルメニア語訳との比較によって術語と鋼構造の関係に関わる内容を考察した。次に、それと旧約聖書のヘブライ語原典のギリシャ語、アルメニア語、シリア語訳とを比較し、さらに、ギリシャ語が原典の一般書のアルメニア語、シリア語訳とも比較して、印欧語とセム語という歴史的系譜関係をもたない言語間関係を類型論的な視点から考察した。

猪股研究員は、述語と項構造の関係は形態論(屈折変化)や統語論的課題となるだけではなく、項(名詞句)の内部構造がアスペクト、テンスの選択にも少なからず関与することを考察した。そしてこの2つの文法範疇の叙述的用法と並んで叙想的用法を提示してモダリティー機能を指摘しこの範疇の選択がモダリティー(主観化)にも関与することを考察した。

この3名の研究員の考察による結論は、述語と項構造の関係は項の数や種類を単純に列挙するだけでは捉えきれず上記の類型論者等により指摘されているパラメータを精査して言語間の相同性を模索しながら考察を継続する必要がある。 この研究班の成果は『人文科学』(人文研究所紀要第21号2016年3月)に一部掲載している。

  • 6月8日(水)16:00~18:30 於 2号館4階人文科学研究所事務室
    小池剛史「古英語における属格用法の多様性について」
    猪股謙二「テンスの叙想的用法について」
  • 7月13日(月) 研究の課題の確認と進捗状況の報告 於 2号館8階猪股研究室
  • 3月10日(木)17:40~19:40 於 2号館8階英米文学科会議室
    研究発表会
    1)小池剛史「古英語後期から中英語初期にかけての属格用法の変化:機能・語順・形態」
    2)武藤慎一「翻訳の新約と新約の翻訳―新約聖書の翻訳言語の語順の類型論的考察―」
    3)猪股謙二「The Imperfective Paradox と主観化―テンス・アスペクト選択との関連においてー」

以上

文化をつむぐ学びのネットワーク

代表者
上野 正道

これからの時代の学びと教育をどのように構想しデザインするのか。政治、経済、社会、歴史、科学、技術、環境、医療、福祉などが複雑かつ領域横断的に関係し合う21世紀の世界の中で、新たな文化や社会を創造する学びや学校のあり方を探索することへの関心が高まっている。グローバル化や技術革新によって、いまの子ども世代が大人となるころには、社会が大きく変化していることが予想される。そのことは、子どもたちが将来就く職業にも多大な影響を及ぼす可能性がある。たとえば、近年の研究が明らかにするところによれば、現在の子どもたちの65%は、将来、いまは存在していない職業に就くことになるという。さらに、今後の10年から20年の間で、およそ半数の仕事が自動化されるという予測もある。このような変化を見据え、これからの学びと教育を、過去・現在・未来をつなぐ社会全体とのかかわりから考察することが求められている。

本研究班は、その課題を「文化をつむぐ学びのネットワーク」という視点から明らかにすることを目的としている。本研究班の研究は、2007-08年度「コミュニティにおける学習」(研究代表者:上野正道)、2009-10年度「コミュニティ教育学研究」(研究代表者:上野正道)、2011-12年度「地域における学びと育ち」(研究代表者:須藤敏昭)、2013-14年度の「地域における学びと育ち」(研究代表者:呉栽喜)の研究班の活動を引き継ぐ形で、2015-16年度の研究に着手している。これまでの研究は主に、地域やコミュニティとのかかわりから学びを捉える試みを行ってきた。その成果は、人文科学研究所発行の『人文科学』や『報告書』、『所報』の中で発表されているとおりである。

今年度の「文化をつむぐ学びのネットワーク」班のメンバー(上野正道 田尻敦子 呉栽喜 渡辺恵津子 平山修一 申智媛 木下徹 高澤直美 イ・クトゥット・ブディアナ、趙衛国、佐藤悦子)は、それぞれが学びや教育、福祉などの研究に従事するとともに、人文科学研究所の研究班として活発な交流を実施し理解を深めてきた。また、各メンバーは、学校や幼稚園、保育所、教育施設、福祉施設など、さまざまな場において、フィールドワークを展開してきた。2015年度は、研究班として以下の活動を実施した。

  • 第1回 5月11日(月) 19:00~19:30 於教育学科事務室
    今年度の活動の打ち合わせ
  • 第2回 6月8日(月) 17:00~17:30 於教育学科事務室
    研究協議と報告
  • 第3回 10月19日(月) 17:00~17:30 於教育学科事務室
    研究協議と報告
  • 第4回 3月1日(火) 13:00~13:30 於教育学科事務室
    今年度の総括と次年度の打ち合わせ

以上

説話・伝説と東国地域社会史研究(サブテーマ:歴史の記憶と記録)

代表者
宮瀧 交二

古文書、記録(「記録」関係史料とする)といった文献史料の少ない関東地方にあって、古代・中世の地域史研究は、限られた史料からのアプローチを余儀なくされている。そのような中、『日本霊異記』や『今昔物語集』をはじめとする説話や地域に伝えられた伝説(「記憶」関係史料とする)は、歴史的事実をどの程度反映しているのかという点において信頼性に欠けるとの批判が根強いものであるが、一定の手続を経ることによって、こうした「記録」関係史料の不足を補って余りあるものである。

本研究班では、主に古代・中世の関東地方を対象に、このような説話や伝説を手掛かりとして具体的な歴史像を解明していきたい。このことは、説話や伝説といった「記憶」関係史料の歴史研究史料としての有効性を確認すると同時に、「記憶」関係史料がこれまで関東地方の古代・中世地域史研究の課題とされてきた文献史料の不足を補うものであることを実証することにもなる。

本年度は、次年度に実施する総合的な共同研究の基礎作業として、当班の各研究員が以下のとおり個別の調査・研究作業を実施した。小林敏男研究員は、長野県長野市に所在する善光寺にかかる「善光寺縁起」の再検討を行い、善光寺創建と百済系渡来人との関係を検討した。磯貝冨士男研究員は、埼玉県東松山市に所在する正法寺(岩殿観音)の縁起から岩殿山の信仰についてアプローチし、その成果の一部は本年度発行の『人文科学』に発表の予定である。藤本誠研究員は、我国最古の仏教説話集である『日本霊異記』の成立を関連史料から検討した。宮瀧研究員は、平成28(2016)年度が、古代武蔵国高麗郡が誕生してからちょうど1300年にあたることから、埼玉県日高市の高麗神社と当地に移り住んだとされている高麗王・若光に関する伝説を再検討し、その中から史実(歴史的事実)を抽出するべく検討を行った(その成果の一部は、埼玉県川越市の川越市立博物館の歴史講座において、「武蔵国入間郡と高麗郡」と題して講演した[2015.5.10.])。

次年度は、各研究員が本年度の活動を進展させて一定の成果を上げるべく努力するとともに、その過程において、前掲のような説話や伝説といった「記憶」関係史料の歴史研究史料としての有効性について共同討議することを予定している。また、磯貝研究員が検討の対象としている埼玉県東松山市の正法寺(岩殿観音)の歴史を紹介する小冊子を、当班で共同執筆・刊行する予定である。

  • 5月18日(月)17:30~19:00 於:Jonathan's板橋西台店
    第1回研究会 報告者:当班全研究員
  • 7月20日(月)17:00~19:00 於:Jonathan's板橋西台店
    第2回研究会 報告者:当班全研究員
  • 12月28日(月)13:30~16:00 於:シャノアール志木店
    第3回研究会 報告者:当班全研究員

以上

中国古代出土資料研究と草創期の学者たち

代表者
吉田 篤志

研究員の活動内容

殷周秦漢時代の研究は考古学の発掘成果と相まって飛躍的な発展を遂げた。殷代は甲骨文や金文(青銅器の銘文)を、西周時代(先周時代を含む)は金文や周原甲骨(陝西省周原地区出土)を、春秋時代は金文を、戦国・秦・漢(初期)時代は金文・竹簡・木牘・帛書等を利用した研究が盛んに行われた。殷代については、殷墟から発掘された夥しい甲骨文、最近では「小屯南地甲骨」「殷墟花園荘東地甲骨」「殷墟小屯村中村南甲骨」等の発見があり、また近年、河南省以外からも殷代の青銅器が発掘され、これに基づく研究成果が上げられている。これらの甲骨文には未解読の文字や未解明の歴史的事象が含まれ、今後の研究が期待されている。西周時代については、陝西省・河南省・山西省等を中心に青銅器が多数出土しており、近年では陝西省周原地区やその周辺から歴史や文化の解明に重要な手がかりを与える青銅器が発掘され、その銘文(金文)から未解明であった貴族社会が明らかにされつつあり、また周原地区から発掘された甲骨文は西周時代の宗教文化を解明する手がかりとなった。春秋時代については、陝西省・河北省・河南省・山西省・山東省・安徽省・湖北省・湖南省等の広範囲にわたって青銅器が出土し、その銘文(金文)から新たな歴史が解明されつつある。戦国時代については、湖北省・湖南省を中心に竹簡(楚簡・秦簡)が多数発掘され、また盗掘簡ではあるが、「上海博物館蔵戦国楚竹書」「清華大学蔵戦国竹簡」「嶽麓書院蔵秦簡」「北京大学蔵漢簡」等が整理出版された。これらの竹簡の内容は既存文献と内容が近似しているものもあり、また全く新たな内容のものもあり、現在、解読解明されつつある。

当研究班は、上記の出土資料研究の上に立ち、その研究成果や新たな出土資料を利用しながら、中国古代文化の一班(新たな面)を多角的(天文暦法・思想・文字学等)に解明し、更には出土資料研究に先鞭を付けた先学等(日中の研究者)やその業績を新たな角度から再検討再評価しようとするものである。研究班構成員は吉田篤志・成家徹郎・西山尚志の3名であり、検討会については、吉田と成家は適宜行い、西山は中国在住のためインターネットを介した情報交換を主とし、双方が渡華・帰国した折りに適宜行った。出土資料報告書(図版等を含む)やその研究論文・著書(字書・索引等を含む)等、また草創期の研究者やその出土資料研究に関する資料の蒐集は主に吉田が担当し、甲骨文関係の情報は成家から、戦国・秦・漢時代の竹簡・帛書等の情報は西山から得た。

日本の東洋学草創期の人物として林泰輔がいる。彼は相互に影響を与えた羅振玉や王国維等とともに中国古代史研究にいち早く甲骨文を取入れて研究を行い、輝かしい成果を残した。林は郷里の千葉県香取郡常磐村(現多古町)の住居で、邸内に「杜城図書館」を設けて蔵書を公開した。没後に約5,000冊が千葉県立中央図書館に、約1,900冊が東京高等師範附属図書館(現筑波大学附属図書館)に寄贈された。吉田は、県立中央図書館の「杜城図書館」蔵書を調査し、多古町の「杜城図書館」跡を訪ね、彼の少年青年期の学問形成に与えた一端を調査した。また林は幕末の儒者、考証学者海保元備(漁村)の弟子島田重礼(篁村)に教えを受けた。海保は考証学者太田金城の弟子。林の実証的研究の基礎に考証学の影響があったと言えよう。横芝光町で海保の関係資料を調査し、生家跡「海保漁村先生誕生之処」(千葉県山武郡横芝光町北清水)を訪うた。

吉田は「清華簡〈説命〉上篇釈読」(第九届中国経学国際学術研討会〔台湾〕、2015年4月)、「〈天〉と〈徳〉―清華簡「説命〔下〕」をめぐって―」(所報 No.21、2015年5月)、成家は「天文学者の自伝―もう一つの中国現代史―(新刊紹介『方励之自伝』)〈補篇〉天安門事件はいま―廖亦武と莫言―」(『人文科学』第21号、2016年3月)、西山は『古書新辨―先秦出土文献与伝世文献相対照研究』(上海古籍出版社、2016.3)等の成果を上げた。

  • 4月 8日(月) 12:30〜16:30 於板橋校舎吉田研究室
    台湾での学会(4月11日・12日、於明道大学)における報告(吉田)及び情報交換。
  • 7月20日(月) 12:30〜16:45 於板橋校舎吉田研究室
    研究(成家)状況の報告。
  • 10月19日(月) 12:30〜16:30 於板橋校舎吉田研究室
    研究(吉田・成家)状況の報告。
  • 12月21日(月) 12:30〜15:30 於板橋校舎吉田研究室
    『人文科学』掲載の進捗状況(成家)の報告。
  • 2月24日(水) 12:00〜15:30 於板橋校舎図書館
    借出し図書の返却と借出し。(成家、吉田は体調不良で欠席)
  • 3月 9日(水) 12:00〜15:30 於板橋校舎図書館
    借出し図書の返却と借出し。(成家、吉田は体調不良で欠席)
  • 4月25日(月) 12:30〜15:00 於板橋校舎吉田研究室
    新年度のスケジュール調整(吉田・成家)。

以上

『法帖提要』所見書人研究

代表者
澤田 雅弘

「法帖提要所見人名字号類索引の編集」

張伯英(1871-1949)著『法帖提要』は、『続修四庫全書総目提要』の一部として著された、類書中最大規模の法帖類提要(527項目からなる)である。容庚の『叢帖目』凡例に「帖之真偽、弁別尽難。張伯英年伯撰法帖提要、於此特為注意、茲備引其説、加資隅反。」と説くとおり、真偽の論定が明確であるほか、書格の論定にも高い見識を示している。文墨をめぐる様々な編纂刊行事情の記録は、法帖学・書法史の資料にとどまらず、翰墨文化の諸相を伝えて貴重である。

本研究班は、『法帖提要』に含まれる記事の重要性に鑑み、『法帖提要索引』の編集を目指して組織した研究班の第二期に相当する。第一期の張伯英『法帖提要』研究班(平成24~25年度)では、『法帖提要索引 法帖名 書蹟名篇』を公刊し、今次の研究班(平成26~27年度)では『法帖提要』所見人名索引の編集を目的とした。

当初の計画は、①特定の人物の姓名から検索できる機能と、②姓・名・字・号・室名・諡・封爵等の称呼から当該人物の姓名のもとに案内できる機能とを具えた人名総合索引であった。今年度は最初に索引形式を協議し、前年度から進めてきた入力データを索引形式に適合するように補正加工しつつ、人名の特定も進めた。その後、同一人の異称を当該人物の姓名のもとに統合する作業に移行し、終盤を迎えた。

しかし、人物特定になお積み残しがあることと、総ページが予想を大幅に越えることが予想されたことから、今次は前述①の特定の人物の姓名から検索できる機能を除き、『法帖提要』全項に見える姓・名・字・号・室名・諡・封爵をはじめとする種々の人名称呼を、五十音順に編成することに止め、『法帖提要所見人名字号類索引』と題して公刊することにした。

この点で『法帖提要所見人名字号類索引』には不自由さもあるが、次に刊行を計画している各種称呼を統合した人名索引を併用することによって、この不自由は解消し、本索引に『法帖提要』所見人名称呼一覧としての意義も付加される。

本研究所では、研究員は複数の研究班に同時に所属することができない。この事情から、本索引編集には3名の兼任研究員(中村薫・渡邉亮太・栗躍崇)のほかにも1名(川内佑毅)の加勢を得た。なお、兼任研究員の丁成東、および別班の兼任研究員である亀澤孝幸の2名は、諸事情からこの索引編成には関わることができなかったが、ともに『法帖提要索引 法帖名 書蹟名篇』構想以来、基礎データの入力におおいに加勢いただいた。

平成27年度研究活動

定例の協議 於澤田研究室

  • 4月10日(金) 入力済データの集約状況の確認と、人物索引編集のための基礎データ形式に関する意見交換
  • 4月24日(金) 意見交換を継続
  • 5月1日(金) 入力の試行結果を踏まえた意見交換
  • 5月8日(金) 意見交換を継続
  • 6月5日(金) 基礎データ形式の決定と分担
  • 7月3日(金) 人物特定に関する情報の交換
  • 7月17日(金) 人物特定に関する情報の交換と進捗の報告
  • 9月18日(金) 人物特定に関する情報の交換と進捗の報告
  • 10月2日(金) 人物特定に関する情報の交換と進捗の報告
  • 11月6日(金) 人物特定に関する情報の交換と進捗の報告
  • 11月13日(金) 基礎データ内容の点検分坦。索引形式の協議
  • 11月20日(金) 基礎データ内容の点検の進捗と結果の報告、分坦箇所の交換
  • 12月4日(金) 基礎データ内容の点検の進捗と結果の報告
  • 12月11日(金) 試作した索引組み見本に関する意見交換
  • 1月8日(金) 新形式による索引組み見本に関する検討、索引原稿の編集分担
  • 1月15日(金) 原稿の統合と点検

臨時の協議

  • 12月16日(水) 編集全般の会議 於澤田研究室
  • 12月21日(月) 編集全般の会議 於澤田研究室
  • 12月30日(水) E-mail交換による方針の変換と新形式の決定

その他

  • 11月28日(土) 本研究所主催の平成27年度秋季研究班報告会(於大東文化会館)に、中村薫が「張伯英『法帖提要』に見る米芾碑帖の真偽」を口頭発表
  • 1月22日(金)  『法帖提要所見人名字号類索引』原稿提出

(3月18日記)
以上

日本近代文学・再読

代表者
下山 孃子

当研究班は、昨年度より班員を増加し、遠方の班員も参加可能なように、大きくは2班(A・B)に分けて、活発、多彩な研究活動を行っている。

【A】

  • 4月 1日(水) 文学散歩を兼ねて、今年度の活動予定の打ち合わせを行う。(於・麻布、飯倉方面)
  • 6月26日(金) 18:00~20:00(於・上智大学)
    杉井和子が「夏目漱石『モナリサ』(「永日小品」より)を読む―「詩」から「笑い」に生かされる時間―」と題して発表。
  • 9月 4日(金) 18:00~20:00(於・上智大学)
    下山孃子が「木村熊二と藤村」と題して発表。この発表は、8月22日の小諸市における藤村忌での「講話」の一部であり、その後、『日本文学研究誌』第13・14合併号(平成28年3月、大東文化大学大学院日本文学専攻)に掲載された。
  • 10月30日(金) 18:00~20:00(於・上智大学)
    小林幸夫が「一人称の攪乱―葛西善蔵の『椎の若葉』の贈り物」と題して発表。
  • 11月27日(金) 18:00~20:00(於・上智大学)
    奥出健が「川崎長太郎『抹香町』を読む」と題して発表。
  • 1月22日(金) 18:00~20:00(於・上智大学)
    高橋真理が「江口渙『太平洋漂流記』をめぐって」と題して発表。

【B】

  • 4月25日(土) 14:00~16:00(於・大東文化大学板橋校舎)
    今年度の活動に関する打ち合わせ。
  • 7月 4日(土) 15:00~17:00(於・大東文化会館 )
    美留町義雄が「森鴎鷗外とガブリエル・マックス」と題して発表。この発表はその後、『鷗外』第98号(平成28年1月、森鷗外記念会)に掲載された。
  • 3月 5日(土) 15:00~17:00(於・大東文化会館 )
    滝口明祥が「禁止と奨励―太宰治『右大臣実朝』」と題して発表。

※班としての研究テーマを掲げての科研費申請はなし。

以上

東アジアの美学研究

代表者
門脇 廣文

我々の共同研究班「東アジアの美学研究班」は、本研究班の前身である「中国美学研究班」の成果を踏まえ、研究範囲を中国から東アジアへと拡大し、より本格的な研究を行うことによって、2006年度の所報で述べた最終目標( )に向かっていくことを目的として立ち上げたものである。今年度(2015年度)も引き続きその目標に向かってさまざまな角度から研究を推し進めた。研究活動は、まず、報告者がそれぞれのテーマに沿って30分~60分の報告をし、その後、その報告に基づいて研究員が全員で討論するという形式で行っている。

2015年度の本研究班の活動は、分野で言えば、美学全般に関する問題から、詩論、書論、画論における個別の問題、さらには現代の美学研究者の美学思想の問題にまで及び、時代で言えば、先秦から漢代、魏晋南北朝、唐代、宋代、明代、そして現代にまで及んでいる。

なお、今年度活動を行った日時・場所、内容および報告者は次の通りである。

  • 4月27日(月)(18:00~20:00)大東文化会館K-301教室
    年度初めの打ち合わせ
  • 5月25日(月)(18:00~20:00)大東文化会館K-401、402教室
    第1回研究会。「芸術論の力」(報告者・亀澤孝幸)
  • 6月29日(月)(18:00~20:00)大東文化会館K-404教室
    第2回研究会。「『詩人之賦麗以則、辞人之賦麗以淫』小考」(報告者・荻野友範)
  • 7月27日(月)(18:00~20:00)大東文化会館K-404
    第3回研究会。「明末印論における審美思想の形成」(報告者・川内佑毅)
  • 10月5日(月)(18:00~20:00)大東文化会館K-401、402
    第4回研究会。「章啓群著『中国美学研究の学術性に関する問題』を読む」(報告者・秋谷幸治)
  • 10月26日(月)(18:00~20:00)大東文化会館K-401、402
    第5回研究会。「書の芸術性に関する術語と現代学者の解釈をめぐる比較研究―〈意境〉〈神彩〉について―」(報告者・藤森大雅)
  • 11月30日(月)(18:00~20:00)大東文化会館K-404
    第6回研究会。「中世書流再考」(報告者・橋本貴朗)
  • 12月21日(月)(18:00~20:00)大東文化会館K-404
    第7回研究会。「宋代までの詩論について―「言志」と「縁情」、「隠」と「秀」を中心に―」(報告者・須山哲治)

以上

古筆複製の研究

代表者
髙城 弘一
  • 第1回 4月5日(日)10:00~12:00 於:大東会館(月陽会)
    各自持参の古筆・古典籍および古筆複製の調査研究および討論
  • 第2回 4月26日(日)10:00~12:00 於:元教育学科村上列教授宅(荻窪会)
    各自持参の古筆・古典籍および古筆複製の調査研究および討論
  • 第3回 5月10日(日)10:00~12:00 於:大東会館(月陽会)
    各自持参の古筆・古典籍の調査研究および討論
  • 第4回 5月31日(日)10:00~12:00 於:元教育学科村上列教授宅(荻窪会)
    各自持参の古筆・古典籍および古筆複製の調査研究および討論
  • 第5回 6月7日(日)10:00~12:00 於:大東会館(月陽会)
    各自持参の古筆・古典籍および古筆複製の調査研究および討論
  • 第6回 6月28日(日)10:00~12:00 於:元教育学科村上列教授宅(荻窪会)
    各自持参の古筆・古典籍および古筆複製の調査研究および討論
  • 第7回 7月5日(日)10:00~12:00 於:大東会館(月陽会)
    各自持参の古筆・古典籍および古筆複製の調査研究および討論
  • 第8回 7月26日(日)10:00~12:00 於:元教育学科村上列教授宅(荻窪会)
    各自持参の古筆・古典籍および古筆複製の調査研究および討論
  • 第9回 9月6日(日)10:00~12:00 於:大東会館(月陽会)
    各自持参の古筆・古典籍および古筆複製の調査研究および討論
  • 第10回 9月27日(日)10:00~12:00 於:元教育学科村上列教授宅(荻窪会)
    各自持参の古筆・古典籍および古筆複製の調査研究および討論
  • 第11回 10月4日(日)10:00~12:00 於:大東会館(月陽会)
    各自持参の古筆・古典籍および古筆複製の調査研究および討論
  • 第12回 10月25日(日)10:00~12:00 於:元教育学科村上列教授宅(荻窪会)
    各自持参の古筆・古典籍および古筆複製の調査研究および討論
  • 第13回 11月8日(日)10:00~12:00 於:大東会館(月陽会)
    各自持参の古筆・古典籍および古筆複製の調査研究および討論
  • 第14回 11月28日(土)13:00~ 於:大東文化大学板橋校舎2号館2階2‐0221会議室
    題 目:かな古筆複製にみる特異性 ―曼殊院本と蓬莱切について―  
    報告者:「古筆複製の研究」研究班 野中直之(兼任研究員) 
    梗 概:戦前、殊に昭和の初めを中心に、数多くのかな古筆の複製が制作された。中でも田中親美氏の関与されたものは、料紙から厳密に復元し制作されるなど、美術的価値を有するほどであった。この一見すると本物と瓜二つに作られた複製でも、細かく観察するとやはり本物とは異なる点が見えてくる。当時、基本的に手作業で作られたこともあり、同じ出版時のものでも、複製ごとに個体差が存する。また、複製の中には版元や編集者などを替えて何度か出版されたものもあり、これらにもそれぞれ差異が見られるようである。

    今般、このような点に着目し、伝藤原行成筆「曼殊院本古今和歌集」と同「蓬莱切」の複製の特異性について報告を行った。
  • 第15回 11月29日(日)10:00~12:00 於:元教育学科村上列教授宅(荻窪会)
    各自持参の古筆・古典籍および古筆複製の調査研究および討論
  • 第16回 12月6日(日)10:00~12:00 於:大東会館(月陽会)
    各自持参の古筆・古典籍および古筆複製の調査研究および討論
  • 第17回 1月10日(日)10:00~12:00 於:大東会館(月陽会)
    各自持参の古筆・古典籍および古筆複製の調査研究および討論
  • 第18回 1月31日(日)10:00~12:00 於:元教育学科村上列教授宅(荻窪会)
    各自持参の古筆・古典籍および古筆複製の調査研究および討論
  • 第19回 2月7日(日)10:00~12:00 於:大東会館(月陽会)
    各自持参の古筆・古典籍および古筆複製の調査研究および討論
  • 第20回 2月28日(日)10:00~12:00 於:元教育学科村上列教授宅(荻窪会)
    各自持参の古筆・古典籍および古筆複製の調査研究および討論
  • 第21回 3月13日(日)10:00~12:00 於:大東会館(月陽会)
    各自持参の古筆・古典籍および古筆複製の調査研究および討論
  • 第22回 3月27日(日)10:00~12:00 於:元教育学科村上列教授宅(荻窪会)
    各自持参の古筆・古典籍および古筆複製の調査研究および討論 
  • 第23回 3月31日(木)11:00~12:00 13:00~15:00 於:京都・志満家他
    各自持参の古筆・古典籍および古筆複製の調査研究および討論

以上

戦前期大東文化学院の教育思想史的研究 ―「漢学」と「皇学」の関連を軸に―

代表者
尾花 清
報告者
兼担研究員 浅沼 薫奈

当班は、2004年度以降継続的に行ってきた、旧制専門学校・大東文化学院に関する研究を深化させ、学院建学動向・思想が如何なるものであったかに関し、一定の結論を見だすことを目指してきた。

研究班名を「大東文化学院の創立・形成過程の研究」、「大東文化学院の教育思想史的研究」、「大東文化学院における『漢学』・『国学』・『皇学』」から本研究班名へと変更してきたことからもわかるように、学院創設期における建学事情及び教育思想を探っていくと、「漢学」「国学」のみならず、「皇学」という独特の思想を有していることが明らかとなってきた。すなわち、初期大東文化学院の性格・性質を明らかにするためには、その目的「皇道及国体の醇化」において、中心目標に掲げられた「皇学」の内容及びその思想形成におけるルーツを辿ることが必須ということになる。

その課題追及のためには、創設関係者の抱いた教育思想及び学院における役割の明確化が重要となるため、改めて多岐にわたる創設関係者の構図整理を行った。同時に、実際の教育内容を分析し、「皇学」と分類された授業を担当した教授陣の思想研究・自伝的研究を悉皆的に行うことも目指した。

具体的には、創設の中心を担った平沼騏一郎、大木遠吉、木下成太郎等の思想形成過程と、実際に初期の学院教育を担った牧野謙次郎等「漢学者」たちの思想や果たした役割を明らかにするため、彼らの出身地や出身校等へ赴き、或いは自伝類や著作類を収集するなどして、研究調査を行ってきた。ただし、漢学をはじめとした相当の専門的知識を要すること、また研究範囲が広範にわたることから、短期の研究ではかなり対象は絞らなければならず、上記以外の人物を含めて、今後の研究課題として多く残されることとなった。

個別大学史研究が、単に年史編纂のためや各大学を誉め称えるだけに行うものでないことは、すでに周知の事実となっている。本研究班による一連の研究は、近代高等教育史上における教育理念・教育思想の構造的変化について一事例を通じて改めて確認するものであり、既成事実とされてきた事象に対し、常に懐疑的・批判的な姿勢を貫き、客観的に近代史の中に大東文化学院を位置づけることを目指してきた。

10年あまりにわたる一連の研究活動のなかで、初期の最大の研究成果は、すでに代表者・尾花によって『大東文化学院創立過程基本史料』(2005年4月刊行)として、500頁超の大著にまとめられている。『創立過程基本史料』における研究成果は、初期の大東文化学院の性質を明らかにするための基軸となり、その後の研究の足掛かりとなった。

今期の研究班の主な成果は、大東文化大学創立90周年ブックレット『大東文化大学の歩いてきた道』(2013年9月刊行、執筆者・浅沼)にも一部反映され、さらに人文研秋季報告会(2014年10月)において、「ブックレット製作から見た自校史的特色」(報告者・浅沼)と題して報告された。

今後の課題として、さらなる関係者たちの思想を明らかにしていくとともに、「皇学」を中心とした大東文化学院の創設時の理念や思想を究明していくことが挙げられる。

【打合せ(研究会)の開催】

  • 2015年10月1日(木)13:00~14:00 研究調査活動報告・総括(教育学科尾花研究室)
  • 2016年3月14日(月)14:00~15:00 資料引き継ぎ・展望(教育学科尾花研究室)

なお、代表者の体調等諸事情が重なり、本来の最終年度(2014年度)の活動では、定期的な研究会・報告会を開催することが叶わず、報告書を提出しえなかった。ただし、メールや電話等で随時意見のやり取りをしながら、進捗状況の報告や相談は、年間を通じ行ってきた。2015年度になり、上記の打合せ会議を開催し、研究資料の整理引き継ぎを行い、今後の課題・展望を総括することで研究活動を終えるものとした。

以上