Report

2016年度 研究班活動報告

言語学・文献学研究班

代表者
猪股 謙二

第一研究班は3名の構成員よりなり相互に連絡を取り合いながらゲルマン諸語、シリア語と中国語、スラブ諸語において「意味情報構造と統語構造の可橈性の問題」を検討している。言語は、時間的空間的な隔たり、外国語との接触、言語使用者の社会階層、言語使用域、対話の構成員相互の関係、言語形態の相違(書き言葉と話し言葉)等の要因により変化する。この変化のあり方は全く予測できない無軌道で恣意的な諸相を示すことは少なく一定の普遍的な要因を持つことが期待される。そこで、研究員が直接的に分析研究している資料を言語変化の資料としテキスト分析することで意味情報とそれを具現化する統語構造が織り成す言語の変化の諸相を調査している。ヨーロッパ諸語にみられる動詞の格支配による名詞の項構造の在り方の変化、名詞類の主要語を核とするparataxisからhypotaxisへ、更に階層性への変移。機能主義言語学のgrammatical metaphorへの移行等の変化が予測される。これらの変化は上記の要因が複雑に影響し合うことで生じるものであるがその動因を模索することを活動目標としている。

小池剛史研究員は英語の古英語時代から中期英語時代を研究している。この時期言語構造は、二つ(以上)の名詞(句)がさらに上位の名詞句を構成する属格構造である。英語の歴史において、古英語期から中英語期初期にかけて、名詞(句)の語順が変化(後置・前置)し、また屈折構造に代わり迂言構造(主にofを使用したもの)が発達している。

古英語から中英語初期にかけて、ノルマン征服の前後の政治的文化的混乱を背景として、言葉の使用に大きな変化があった。12世紀に、古英語期の修道院の中で聖職者や筆耕たちの間で育まれた文章語の伝統が大きく崩れ、より民衆語に近い形での書き言葉の使用が模索されつつあった。特に、古英語期に成立した古英語の説教集が、12世紀に再び書き写され、その際に言語を同時代人の民衆の言語感覚に合うように部分的に書き直されているのが見て取ることが出来る。

本研究では、古英語期成立および12世紀中(中英語期初期)の資料、特にジャンルが両時代に共通する説教集を比較することにより、12世紀の英語母語使用者としての属格構造に関する言語感覚を、できる限り浮彫にすることを目的とする。言語使用を取り巻く社会的状況が言語変化の説明にどれだけ説得力を与えるかを模索したい。

武藤慎一研究員は中国へのキリスト教伝播に関わる言語間の問題に取り組んでいる。初めて中国に伝播したキリスト教(景教)は、最重要の三位一体の神を「三一」という中国古来の漢語で表現した。従来の研究では、シリア・キリスト教側の背景ばかりが注目され、中国側の受け取り方はあまり取り上げられてこなかった。しかし、これは道教でも長らく重要な用語の1つだったので、読む側の背景も等閑視できないはずである。また、これは一神教と多神教という宗教の根本問題にも関わる。そこで、今年度は道教における名詞「三一」を漢末以来の宇宙論的三一、六朝時代に隆盛した適応的三一、唐代に最盛期を迎えた重玄的三一の3種類に分類した上で、景教の三一と比較して、これが適応的三一と最も近いことが判明した。ただ、一神教の景教の名詞「三一」の形容詞的用法は全て「三」、即ち神の多様性を強調しているのに対して、多神教の道教にはこの用例はほぼ皆無で、むしろ「一」、即ち神の一性を強調している、という大きな相違点も見出された。

猪股謙二研究員は、言語間にみられる語順の多様性の問題に取り組んでいる。特に、Henri Weil, The Order of Words in the Ancient Languages compared with that of the Modern Languages.(1887)により提示された語順の変化の問題を考察している。H. Weilは19世紀の古典学者であり言語学者ではないがその指摘は今日でも興味ある検討課題を提示している。古典語は現代諸語の語順がnatural order of thought に支配された統辞的関係性とは異なり、範列的語彙の選択関係性を顕著に具体化するという指摘には注目したい。特に、語順が文法関係、主題関係、提題の言語化(themeやrhemeの区別)をも考慮してみると、H. Weilの提言も一層興味ある内容になることが期待できる。

【活動の日程】

  • 2016年7月25日(月)18:00~17:30 於2号館8階会議室
    「夏季研究会」
    研究員の研究課題の確認と研究計画
  • 2016年10月17日(月)18:00~19:00 於2号館8階会議室
    「秋季研究会」
    研究員の中間発表会
  • 2017年2月25日(土)10:00~12:00 於2号館8階会議室
    「春季研究会」
    研究員の今年度の研究内容の紹介
    2016年度は秋季研究会と春季研究会は他の集会との関係により実施することができなかった。次年度は実施できるように鋭意努力する。
    (文責 猪股)

以上

文化をつむぐ学びのネットワーク

代表者
上野 正道

本研究班のテーマは、学校、家庭、地域、社会が相互につながりあうなかで、子どもたちの学びや育ちがどのように生成されるのかについて、「文化をつむぐ学びのネットワーク」という観点から検討することにある。子どもたちの学びは、学校の教室や授業でおこなわれるものであると同時に、家庭、地域、社会全体のなかで実践されるものでもある。そのことは、近年の教育改革において、「コミュニティ・スクール」や「アクティブ・ラーニング」、「社会に開かれた教育課程」などが注目されていることにも反映されている。こうした動きにともない、学校や教育の課題を、新たな文化と社会をつむぐ学びのネットワークづくりへと結びつけることへの実践的な関心が広がっている。

2015年度と16年度の研究のなかで、研究班のメンバー(上野正道 田尻敦子 呉栽喜 渡辺恵津子 平山修一 申智媛 木下徹 高澤直美 イ・クトゥット・ブディアナ、趙衛国、佐藤悦子)は、地域やコミュニティを中心とした子ども研究と学びの研究に着手するとともに、相互の研究交流を実施してきた。各メンバーは、学校、幼稚園、保育所、教育施設、福祉施設など、それぞれの研究のフィールドをもっている。また、研究対象とする地域も、アジア、ヨーロッパ、アメリカなどと多様である。そのなかで、2年間の活動を通して積極的な交流ができたことは、一つの大きな成果であると言える。2016年度は、具体的に以下の活動をおこなった。

  • 第1回 5月9日(月) 19:00~19:30 於教育学科事務室
    今年度の活動の打ち合わせ
  • 第2回 6月13日(月) 17:00~17:30 於教育学科事務室
    研究協議と報告
  • 第3回 10月10日(月) 17:00~17:30 於教育学科事務室
    研究協議と報告
  • 第4回 11月26日(土) 13:00~15:00 人文科学研究所第1回研究報告会
    上野正道「アートによる教育と公共性――文化をつむぐ学びのネットワーク」
  • 第5回 3月1日(水) 13:00~13:30 於教育学科事務室
    今年度の総括と次年度の打ち合わせ

以上

説話・伝説と東国地域社会史研究

代表者
宮瀧 交二

「説話・伝説と東国地域社会史研究」班では、最終活動年度である平成28年度も、前年度に引き続いて各班員が以下のような個別の調査・研究活動を実施し、これを基礎として、共同討議を行った。

磯貝冨士男は、中世末期から近世初頭にかけての岩殿観音(埼玉県東松山市岩殿)を構成した人々の実態について明らかにするとともに、関東の統治者が北条氏から徳川氏に代わったことで彼等にどのような変化・問題が生じたのかについて考察した。この課題に関しては、既に、中世末期から近世前期に至る間の岩殿観音の宗教行事を担った主体に関して、7ヵ寺協調時代→正法寺が加わった8ヵ寺協調時代→正法寺優越時代という三段階を経てきたことを明らかにしてきた。ここからは、正法寺がこの間どのような歴史的事情の中で岩殿山を代表する地位に就くようになってきたのかという課題が提起されてくる。本研究では、このような展開を生じせしめた条件は、徳川氏による仏教寺院政策にあったことを明らかにした(その成果は本年度発行の『人文科学』に掲載した)。

小林敏男は、信濃国善光寺における堂と寺院との関係について引き続き検討した。善光寺は縁起では堂として始まるが、白鳳期の出土瓦によって伽藍をもった寺院であったことが明らかになった。堂から寺院への転換がどうなされたのかについては、2016年度民衆史研究会大会シンポジウム「古代の仏教受容と在地支配-地域社会と村堂-」(2016年11月27日、早稲田大学)において、堂や村落寺院のかなり多様で豊富な事例が紹介された。考古学の発掘調査にも目を向けることによって、解明の糸口が見えてくるのではないかと考えている。

藤本誠は、古代の地域社会における仏教施設と仏教儀礼について、継続して検討を行った。古代東国にも訪れた官大寺僧が執筆したと推定される法会の説法の手控えである『東大寺風誦文稿』の検討を行い、法会の檀越となる在地有力者層と一般の村落構成員に対する内容に使い分けて語られた部分があることを明らかにし、また『風誦文稿』と近い関係にある『日本霊異記』の考察から、古代村落の「堂」の造営主体について「村落首長的性格」を持つ有力者という自説を更に深めた。その成果は、2016年度民衆史研究会大会シンポジウム「古代の仏教受容と在地支配-地域社会と村堂-」(2016年11月27日、早稲田大学)の中で、「古代村落の「堂」研究の現状と課題」と題して報告した。また、これまでの数年間の研究の成果を、『古代国家仏教と在地社会』(吉川弘文館、2016年12月)として刊行した。その他、7月には、磐梯山慧日寺資料館平成28年度歴史講座(第2回)の講師を務め、「古代の在地社会の法会」という題目で講演を行い、現地の学芸員と会津の古代遺跡についての情報交換を行った。3月には古代の仏教施設と仏教儀礼のモデルケースとして、東大寺修二会の見学と、古代氏族額田氏の氏寺で天平勝宝8歳(756)から天平宝字年間成立の伽藍絵図が残されている奈良県大和郡山市にある額田寺の現地踏査を実施し、知見を深めた。

宮瀧交二は、昨年度に引き続き古代武蔵国高麗郡の建郡に関する伝承、特に高麗若光に関する伝承と史実との比較検討作業を行った。高麗若光については、高句麗の滅亡(668年)の直前に来日した高句麗使節の一人に「若光」の名があり(『日本書紀』天智天皇5[666]年10月己未条)、大宝3(703)年には、従五位下となっていた若光が王姓を賜ったことが知られている(『続日本紀』大宝3年4月乙未条)。埼玉県日高市に所在する高麗神社の社伝は、若光は来日後、相模国大磯の地(後の相模国余綾郡)に移り住み、霊亀2(716)年の武蔵国高麗郡の建郡に伴って同郡の郡司となり、大磯から武蔵国高麗郡に移住したと伝えているが(高麗神社『高麗神社と高麗郷』昭和6[1931]年)、近年、奈良県藤原宮跡から「高麗若光」と記された木簡が出土し(『藤原宮木簡』3-1316)、若光は高麗郡の建郡までは藤原京・平城京に居住していた可能性が浮上してきた。一方で、神奈川県大磯には、高麗山と呼ばれる山や高来神社(旧名高麗神社)も所在しており、高麗神社の社伝が神奈川県大磯を高麗若光の旧居住地と伝えている背景に、何らかの歴史的事実が反映されている可能性も否定することは出来ない。今後は①なぜ高麗神社の社伝に神奈川県大磯が登場するのか、②高麗若光の生涯に関する真相解明の2点について引き続き検討を加えていきたい。

【活動記録】

  • 2016年11月27日、10:00~17:00(於:早稲田大学)
    2016年度民衆史研究会大会シンポジウム「古代の仏教受容と在地支配-地域社会と村堂-」に参加
  • 2017年1月6日、13:00~17:00(於:志木駅前 喫茶店「シャノワール」)
    研究会「2016年度の成果と課題」

以上

中国古代研究 ―出土資料と伝世文献―

代表者
吉田 篤志

研究員の活動内容

90年代以降、戦国・秦・漢時代の竹簡(楚簡・秦簡)が湖北省・湖南省を中心に多数発掘され、また盗掘簡ではあるが、「上海博物館蔵戦国楚竹書」「清華大学蔵戦国竹簡」「嶽麓書院蔵秦簡」「北京大学蔵漢簡」等が整理出版された。これらの竹簡の内容は既存文献と内容が近似しているものもあり、また全く新たな内容のものもあり、現在、解読解明されつつある。特に『老子』については、「馬王堆漢墓帛書」・「郭店楚墓竹簡」や「北京大学蔵漢簡」等に収載され、詳細な研究成果が報告されている。また出土資料には「日書」や「術数」関係の資料も収載され、これらの研究も盛んに行われるようになり、既に研究成果が報告されている。

当研究班は、上記の研究成果や新たな出土資料を利用しながら、中国古代文化の一班(新たな面)を解明しようとするものである。研究班構成員は吉田篤志・成家徹郎・吉冨透・西山尚志の4名であり、研究会については、吉田と成家は適宜行い、吉冨・西山とはインターネットを介した情報交換を主とした。出土資料報告書(図版等を含む)や研究論文・著書(字書・索引等を含む)等の出土資料研究に関する資料の蒐集は主に吉田が担当し、研究会は吉田・成家が適宜行った。

吉田は、「清華大学蔵戦国竹簡」に収載される尚書関係の文献、なかでも「傅説之命(フエツノメイ)甲乙丙」三篇を中心に、偽古文尚書と言われている既存文献の『尚書』「説命(エツメイ)」との比較を通して考察した。両者は内容がかなり異なっており、「傅説之命」は真古文尚書と言うべきもので、特に三篇中の上篇には‘失仲’なる人物が登場し、‘傅説’に成敗されている。吉田はこれについて釈読を試みているが、前の解釈を訂正して新たな解釈を報告した(「三読清華簡「傅説之命」上篇」、中國社會科学院歷史研究所報告会、2016年11月)。

成家は、古代四川省の蜀地域の文化は西アジア・アフリカ・西欧等の中国以外の影響を色濃く遺しており、三星堆遺跡・金沙遺跡・船棺遺跡等で発見された文物の中には中国以外の地域からもたらされた文物がかなりあるとして、古蜀史の研究に取り組んできた。その成果が『古蜀史』(研究報告書、2017年3月)に纏められた。また朝鮮半島で発見された楽浪漆器と蜀漆器との関係を考察し、「書評:『楽浪漆器』——蜀漆器の再評価——」(『人文科学』第22号、2017年3月)を著した。

2016年度研究会日時

初年度は、研究員それぞれが設定した研究対象に沿って研究を進めた。新型コロナウイルス感染予防の観点と海外にいる研究員2名の事情も配慮して、組織当初計画していた中間報告の集会は開催しないこととし、全てリモートワークの方法で、研究の進捗報告、『人文科学』誌投稿者の選出、次年度刊行予定の当該班研究報告書掲載の各研究員の論考仮題目の提出、その他情報交換等を行った。

  • 4月25日(月) 12:30〜15:00 於板橋校舎吉田研究室
    研究状況の報告、及び情報交換。
  • 6月20日(月) 12:30〜16:00 於板橋校舎吉田研究室
    研究状況の報告、及び情報交換。
  • 9月29日(月) 12:30〜18:00 於板橋校舎吉田研究室
    『研究報告書』(成家)の進捗状況の報告、及び情報交換。
  • 10月24日(月) 12:30〜15:30 於板橋校舎吉田研究室
    研究室及び図書館にて資料収集・図書の借出し、及び情報交換。
  • 12月 5日(月) 12:30〜13:30 於板橋校舎吉田研究室
    情報交換。成家は図書館にて図書の返却と借出し。

以上

中国書法史の文献学的研究

代表者
澤田 雅弘

「『法帖提要索引 人名篇』の刊行」

張伯英(1871-1949) の『法帖提要』に含まれる情報の意義に鑑みて、これまで『法帖提要索引 法帖名書跡名篇』『法帖提要所見人名字号類索引』を公刊してきたが、今年度は『法帖提要』所見のすべての人名類を検索する人名索引(A5、268ページ)を刊行した。

この索引編集に従事したのは、本研究班のうち兼任研究員である中村薫、渡邊亮太、栗躍崇の3名と、兼任研究員同然に関わった川内祐毅、それに澤田の5名である。

年度当初に3回にわたって索引形式と基礎データの入力方針を協議したのち、『法帖提要』に字号等で現れる人名の特定について分担範囲を決め、9月末を目標に各人がデータの入力を開始した。その後は、月1回のペースで進捗と問題箇所を報告しあった。分担者各人の基礎データが出揃い、それらを統合したのちは、データ間の表記上の不整合や、統合されていない同一人物の統合作業等に移行し、個々の問題解決にはEメールを活用して協議した。なお、栗躍崇は基礎データが出揃った時点で学位請求論文執筆に専念するため、残る作業は中村・渡辺・川内と澤田の4名で行った。

統合データを五十音順に改めて索引の全体像がようやく見えるようになったのは12月中旬で、その後は各人が統合データを所有し、それぞれが原稿提出期日まで点検を重ねたが、なお特定できなかった人名も少なくない。また、見逃した誤りも少なからずあると思われる。しかし、『法帖提要』に含まれる多くの情報を検出するうえで、本索引の意義は大きいと自負する。

本索引は、『法帖提要』所見の字号等別称を当該人名項目に案内する「所見人名類索引」と、個々の姓名のもとに所見人名類を統合した「人名総合索引」の二部からなり、前者は前年度に刊行した『法帖提要所見字号類索引』を発展させたものである。

  • 第1回 4月14日(木) 索引形式と基礎データの入力方針を協議。
  • 第2回 4月21日(木) 同上
  • 第3回 5月12日(木) 同上。分担範囲の確認。
  • 第4回 6月16日(木) 入力作業の進捗の確認と、問題点についての意見交換。
  • 第5回 7月 7日 (木)  同上
  • 第6回 7月14日(木) 同上
  • 第7回 9月29日(木) 入力作業の進捗の確認と今後の作業について協議。
  • 第8回 10月27日(木) 基礎データの試験統合結果を踏まえ、今後の作業について協議。
  • 第9回 11月24 日(木) 統合データの確認。統合データ点検の分担とその期限について協議。
  • 第10回 12月15日(木) 統合データの修正上の問題点、及び編集事項について協議。
  • 第11回  1月12日(木) 台割、表紙等の相談と確認。
  • (時間はいずれも12:45~13:15、場所は澤田研究室)

(5月8日記)
以上

日本近代文学・再読

代表者
下山 孃子
  1. 4月22日 18:00~20:00  (場所:上智大学)
    今年度の打ち合わせ
  2. 6月24日 18:00~20:00  (場所:上智大学)
    杉井和子が「尾崎紅葉『恋山賊』を読むー翻案小説の意義」と題して発表。「恋山賊」 は、ゾラの「ムーレ神父の罪」に想を得たとする内田不知庵の指摘が発端となる一方で、西鶴作品との重なりも多く指摘されて来た。今回は、紅葉の「恋山賊」を原典と比較し、この時期の紅葉の小説群から突如抜け出したような独特な虚構性―新しさ―を論じた。
  3. 6月25日 15:00~17:00 (場所:板橋キャンパス)
    中山弘明が「作品論と〈学問史〉―三好行雄における国民文学論―」と題し、発表。日本近代文学研究史自体を相対化する壮大な試み。中山は徳島文理大学に勤務しており、他の学会参加を兼ねて上京したため、連日の研究会となったが、これは当班の新たに組織された〈別班〉の活動の一端でもある。
  4. 9月9日  18:00~20:00  (場所:上智大学)
    下山孃子が、「大江健三郎における『雨(あめ)の木(き)』表象」と題して発表。一九八〇年代の大江文学には、作家自身を思わせる「僕」を語り手とし、インターテクスチュアルな方法を駆使した作品群が頻出する。それらを中心に、大江の創作方法を分析。
  5. 10月28日 18:00~20:00  (場所:上智大学)
    小林幸夫が「芥川龍之介『孤独地獄』(大5・4)を読み直す」と題して発表。芥川の「孤独地獄」は、従来、「孤独」という単語に引きずられて、「近代人の孤独や寂寥感を仏教にことよせて語った」作品とか、「芥川自身の孤独感」に関係させて読む読み方が優勢である。
    しかし、この作品の「孤独」は、所謂“solitude”ではなく、「一切のことが少しも永続した興味を与へない。だから何時でも一つの境界から一つの境界を追って生きてゐる」という無気力さのことを指し示しているのではないか、という観点からの発表。
  6. 11月26日【人文研共同研究発表会】13:00~15:00 (場所:板橋キャンパス)
    下山孃子が「明治二十年代ロマンチシズムの源流」と題して報告。これは、2017年3月刊行『新撰讃美歌』(岩波文庫:青)の「解説」と「注」の土台となったもの。
  7. 12月2日 18:00~20:00  (場所:上智大学)
    奥出健が森鷗外「追儺」について発表。先行研究や地図を踏まえて、作中のあらゆる固有名詞についての注解を施す。周知の「小説といふものは何をどんな風に書いても好いものだ」について、「自己弁護」とみるよりも、自己にとって不興極まる現実に切り込んでいく、切り込むことによってその要素を並べ直し、精神的安定を得るという部分が強いことを指摘した。
  8. 2月14日 18:00~20:00  (場所:上智大学)
    高橋真理が「「漂流奇談」――鈴木三重吉と雑誌「赤い鳥」の「実話」」と題して発表。高橋は継続して〈漂流もの〉を扱っているが、今回は児童向け雑誌『赤い鳥』を舞台とする漂流記を取り上げた。ジャンルの多様性(童謡、曲譜、自由詩、綴り方、自由画、劇、科学、実話)を整理しながら、特に「実話」に類する漂流記を対象とした。
  9. 3月24日 15:00~17:00
    中山弘明著『溶解する文学研究―島崎藤村と〈学問史〉―』(2016年12月、翰林書房)の合評会。〈別班〉活動。

※当班は、研究報告書『近代文学研究Ⅵ』(2017年3月)をもって、13年にわたる班の活動〈旧班〉を閉じることとした(同「あとがき」をご参照下さい)。美留町義雄を中心とする〈別班〉―新メンバー―が、実質的に活動を継続する。

以上

東アジアの美学研究

代表者
門脇 廣文

我々の共同研究班「東アジアの美学研究班」は、本研究班の前身である「中国美学研究班」の成果を踏まえ、研究範囲を中国から東アジアへと拡大し、より本格的な研究を行うことによって、2006年度の所報で述べた最終目標に向かっていくことを目的として立ち上げたものである。

その目標とは、「美学」という概念のもとにこれまで各分野で個別に検討されてきた「範疇語」、あるいは「概念語」の内容をできるだけ総合的、論理的に説明することである。今年度(2016年度)も引き続き目標に向かってさまざまな角度から研究を推し進めた。研究活動は、まず、報告者がそれぞれのテーマに沿って30分~60分の報告をし、その後、その報告に基づいて研究員が全員で討論するという形式で行っている。

2016年度の本研究班の活動は、分野で言えば、美学全般に関する問題から、詩論、書論、画論、印論(篆刻論)、小説論における個別の問題、さらには現代の美学研究者の美学思想の問題にまで及び、時代で言えば、先秦から漢代、魏晋南北朝、唐代、宋代、明代、そして現代にまで及んでいる。

今年度活動を行った日時・場所、内容および報告者は次の通りである。なお、活動の成果は『中国美学範疇研究論集』(第五集)にまとめ、刊行した。

  • 4月25日(月)(18:00~20:00)大東文化会館K-301教室
    年度初めの打ち合わせ
  • 5月30日(月)(18:00~20:00)大東文化会館K-404教室
    第1回研究会。「賦によって諷刺はできるのか-『法言』吾子篇における「諷乎」という表現をめぐって-」(報告者・秋谷幸治)
  • 6月27日(月)(18:00~20:00)大東文化会館K-404教室
    第2回研究会。「中国の印論における書論受容の特性」(報告者・川内佑毅)
  • 7月25日(月)(18:00~20:00)大東文化会館K-404 教室
    第3回研究会。「唐代までの書論にみえる〈和〉字術語研究」(報告者・池田絵理香*オブザーバー班員)
  • 9月26日(月)(18:00~20:00)大東文化会館K-404教室
    第4回研究会。「『太平広記』に見られる「離魂」と「夢のごとし」-「南柯太守伝」を理解するために-」(報告者・葉山恭江)
  • 10月24日(月)(18:00~20:00)大東文化会館K-404教室
    第5回研究会。「江西詩派に見える練字と読書の関係」(報告者・須山哲治)
  • 12月19日(月)(18:00~20:00)大東文化会館K-404教室
    第6回研究会。「温庭筠『商山早行』に対する批評の流れ」(報告者・鈴木拓也)

以上

装飾料紙の研究

代表者
髙城 弘一

本研究班は、奈良時代から制作されはじめた装飾料紙を多方面から研究している。それは、今日制作される装飾料紙も広く含むものである。先行文献や画像だけに頼らず、なるべく現物を精査することによって、研究成果を導き出していきたい。

  • 第1回 4月3日(日)10:00~12:00 於大東会館(月陽会)
    各自持参の古筆・古典籍および装飾料紙等の調査研究および討論
  • 第2回 4月24日(日)10:00~12:00 於元教育学科村上列教授宅(荻窪会)
    各自持参の古筆・古典籍および装飾料紙等の調査研究および討論
  • 第3回 5月8日(日)10:00~12:00 於五島美術館
    五島美術館において展観の古筆・古典籍および装飾料紙等の鑑賞および討論
  • 第4回 5月29日(日)10:00~12:00 於元教育学科村上列教授宅(荻窪会)
    各自持参の古筆・古典籍および装飾料紙等の調査研究および討論
  • 第5回 6月12日(日)10:00~12:00 於大東会館(月陽会)
    各自持参の古筆・古典籍および装飾料紙等の調査研究および討論
  • 第6回 6月26日(日)10:00~12:00 於元教育学科村上列教授宅(荻窪会)
    各自持参の古筆・古典籍および装飾料紙等の調査研究および討論
  • 第7回 7月10日(日)10:00~12:00 於大東会館(月陽会)
    各自持参の古筆・古典籍および装飾料紙等の調査研究および討論
  • 第8回 7月31日(日)10:00~12:00 於元教育学科村上列教授宅(荻窪会)
    各自持参の古筆・古典籍および装飾料紙等の調査研究および討論
  • 第9回 9月18日(日)10:00~12:00 於東京国立博物館(月陽会)
    東京国立博物館において展観の古筆・古典籍および装飾料紙等の鑑賞および討論
  • 第10回 9月25日(日)10:00~12:00 於元教育学科村上列教授宅(荻窪会)
    各自持参の古筆・古典籍および装飾料紙等の調査研究および討論
  • 第11回 10月22日(日)13:00~16:00 於帝京大学総合博物館
    帝京大学総合博物館において開催の「日本書道文化の伝統と継承 ―かな美への挑戦―」展で、「古筆の見方」と題する列品講座を、代表・髙城が担当。古筆・古典籍および装飾料紙等に関する講演および鑑賞講座
  • 第12回 10月23日(日)10:00~12:00 於元教育学科村上列教授宅(荻窪会)
    各自持参の古筆・古典籍および装飾料紙等の調査研究および討論
  • 第13回 10月23日(日)13:00~15:00 於帝京大学総合博物館(荻窪会)
    帝京大学総合博物館において開催の「日本書道文化の伝統と継承 ―かな美への挑戦―」展で、古筆・古典籍および装飾料紙等の鑑賞および討論
  • 第14回 11月27日(土)13:00~ 於元教育学科村上列教授宅(荻窪会)
    各自持参の古筆・古典籍および装飾料紙等の調査研究および討論
  • 第15回 12月4日(日)10:00~12:00 於大東会館(月陽会)
    各自持参の古筆・古典籍および装飾料紙等の調査研究および討論
  • 第16回 1月8日(日)10:00~12:00 於大東会館(月陽会)
    各自持参の古筆・古典籍および装飾料紙等の調査研究および討論
  • 第17回 1月29日(日)10:00~12:00 於元教育学科村上列教授宅(荻窪会)
    各自持参の古筆・古典籍および装飾料紙等の調査研究および討論
  • 第18回 2月19日(日)10:00~12:00 於大東会館(月陽会)
    各自持参の古筆・古典籍および装飾料紙等の調査研究および討論
  • 第19回 2月26日(日)10:00~12:00 於元教育学科村上列教授宅(荻窪会)
    各自持参の古筆・古典籍および装飾料紙等の調査研究および討論
  • 第20回 3月12日(日)10:00~12:00 於大東会館(月陽会)
    各自持参の古筆・古典籍および装飾料紙等の調査研究および討論
  • 第21回 3月26日(日)10:00~12:00 於元教育学科村上列教授宅(荻窪会)
    各自持参の古筆・古典籍および装飾料紙等の調査研究および討論

以上