研究所の活動/Report
2017年度 研究班活動報告
「言語学・文献学」研究班
- 代表者
- 猪股 謙二
「言語」は常に変化する潜在性を備えている。ここに言語の本来的な伝達・表現・交感・主観化等の機能を考慮にいれるとその動態的特徴は一層顕現する。本研究班は機能的言語観によりこの言語に生じる言語変化と言語創造の在り方を研究する。研究員の専門とする対象言語は異なるがこの機能的言語観に依り個別言語を越えて普遍的な言語記号の本質的特徴を模索する。
研究員の活動内容
(1)報告者 兼任研究員 須藤 英幸「アウグスチティヌスとソシュールの記号論研究」
言語記号の源泉とその樹立という観点から捉えられうるアウグスティヌスとソシュールとの比較研究である。第一に、アウグスティヌスが言語理論の源泉と捉えられうる理由を探求する。アウグスティヌスは、ストア派の論理学的な記号の枠組みの中に意味論的な言語を取り入れることで、記号論的な指示作用が言葉そのものに付与されるという新たな言語記号の領域を創出した。第二に、アウグスティヌスとソシュールの言語記号に関する比較研究を行う。彼らは同じように、言葉の聞き手に適応されたものとして、言葉を記号学的枠組みの中で捉えており、この観点から、前者は聖書解釈において言語記号の役割に注目し、後者は言語学としてのラングを構築した。すなわち、アウグスティヌスは学びの過程に言語記号を応用したのに対し、ソシュールは言語の外に出ることなく言語学の樹立を追求したのである。この研究は、松澤和宏編『21世紀のソシュール』(水声社、2018年、171-183頁)において刊行。
(2)報告者 専任研究員 小池 剛史研究員 「ウェールズ語正書法の発達」
現代ウェールズ語の正書法は音韻的綴り字であり、綴りを見ればその発音が分かる仕組みになっている。他方、綴りが示す発音とは別に、地域によって異なる口語発音が存在する。本研究では、口語発音と異なる音を表すウェールズ語正書法が発達した経緯を調べた。ウェールズ語の正書法は20世紀初頭に法典化されている(『ウェールズ語正書法』(Orgraff yr Iaith Gymraeg, 1928年)。この正書法は1588年のウィリアム・モルガン訳聖書の綴り字に準拠している。モルガン訳聖書の綴りが表す発音は、中世初期(12世紀中頃~14世紀中頃)の詩人らの間で標準として認識されていた発音であり、16世紀の人々にとっても擬古的な発音であった。従って、現代ウェールズ語の綴りが示す音は、中世初期以来、それぞれの時代の口語ウェールズ語発音とは別に、ウェールズ人著述家の間で標準発音として認識されてきた発音ということになる。
(3)報告者 専任研究員 猪股 謙二「O.Jespersenと言語変化のProgressについて」
O.Jespersen(1860-1943)は19世紀末から20世紀前半に活躍し英語の体系的な研究によりHenry Sweetにもその独創性により高く評価されたデンマークの研究者である。その研究の特徴は、初期の博士学位論文(1891)にも顕著にみられる言語の歴史変化を「進歩」(progress)と捉えるものであり、未だ言語有機体説が横行するなかでは極めて斬新な発想であった。今回の発表では、Jespersenの言語変化の進歩説の動機を探り、一般言語理論として言語変化を扱うことの諸問題をFriedrich Max Müller,Joseph Vendyès,E.Coserie等の説をも検討しながら整理し、Jespersenの進歩説は言語理論の評価のみならず、当時のCharles Darwin, Thomas Huxley, Herbert Spencerが唱えるAgnosticismに少なからず影響を受けていることを指摘した。
(4)報告者 専任研究員 武藤 慎一「外来語に見るシリア語のテュルク化 −ハラホト出土シリア文書を中心にして」
貴重なハラホト旧出土シリア文字文書と新出土文書の言語学的視点から比較は、従来ほとんどなされていなかった。そこで今年度は、シリア語テクストのテュルク(トルコ)化の度合いをはかることで、謎だったシリア・キリスト教のテュルク化の様相を明らかにしようとした。問題は、特に短い綴りの語が多いので、文書が破損していた場合、綴りが偶然一致したとしても、それがシリア語からの借用語なのか、元々のテュルク語なのかの判断が難しいことである。そこで、原語(シリア語)とテュルク語の中の外来語との接点として、引用文に着目した。外来語と引用語を比較してみることで、シリア語からの外来語とそうでない語との判別の基準が明確になった。結果、固有名詞や特殊な語以外は全てテュルク語に翻訳されていることが判明した。また、このモンゴル帝国期(元代)以前のテュルク化の徹底の傾向は、唐代の「大秦景教流行中国碑」における中国化の徹底の傾向と一致している。
【活動の日程】
- 7月26日(水)13:00~15:00 於いて 板橋校舎2号館 猪股研究室
今年度の研究内容の打ち合わせ - 9月22日(金)16:00~17:00 於いて 板橋校舎2号館 猪股研究室
進捗状況の打ち合わせ - 3月14日(水)13:00~17:30 於いて 板橋校舎2号館 8階会議室
研究発表会 (大学院英文学専攻の学生の参加もあり盛会)
コミュニティの学びと学校
- 代表者
- 仲田 康一
研究員の活動内容
本研究班は、「こども像の変遷」のサブテーマのもと、標記の研究テーマで研究活動を行っている。
その背景は以下の通りである。グローバル化や情報化が進展する現代において、学校教育をどのように展望するのか。政治、経済、社会、歴史、科学、技術、環境、医療、福祉などが複雑かつ横断的に交差し関連し合う世界の中で、新たな文化や社会を創造する革新的な学びを探ることへの関心が高まっている。現在の子ども世代が大人に成長するころには、大きく社会が変容していることが予測されている。それに伴い、教育課程改革では、「何を学ぶか」だけでなく、「どのように学ぶか」という「アクティブ・ラーニング」への注目が集まっている。また、「コミュニティ・スクール」や「チーム学校」の導入も進められている。このような変化を見据え、これからの学びと学校をコミュニティとのかかわりから明らかにすることを本研究班の課題とした。
これらの方針に基づき、2017年度は、以下のように研究を実施した。
まず、申請テーマに基づく各自の研究に着手し、これを推進した。各々のメンバー(代表者のほか、上野正道、田尻敦子、呉栽喜、渡辺恵津子、平山修一、申智媛、木下徹、高澤直美、イ・クトゥット・ブディアナ、趙衛国、佐藤悦子、田原真人、印鑰紀子、長野遼、末利光)は、これまでにも地域やコミュニティを中心とした子ども研究と学びの研究を行い、人文科学研究所の研究班として活動し相互の研究交流と理解を深めてきた。と同時に、各メンバーは、学校や幼稚園、保育所、教育施設、福祉施設など、さまざまな場において、教育のフィールドをもっている。そのフィールドは、日本の都市部から地方にまたがり、アジア・ヨーロッパ・アフリカ等、世界的にも多様である。それぞれが、学校教育、カリキュラム、学習論、社会福祉学、比較教育、教育行政など、各研究領域において、コミュニティの学びと学校に関する基礎的、概念的フレームワークの構築を目指しながら、これらの分野の先端的な研究を参照し、関連文献と資料を収集した。また、各メンバーが、それぞれのフィールドとコンタクトを持ち、資料調査および実地調査を行った。
また、相互のメンバーの研究交流を推進し、共同研究会や勉強会などを行った。特に、田原真人兼任研究員の技術的助言を得ながら、日本、インドネシア、マレーシアをつなぐビデオ・カンファレンス(web会議システムのzoomを利用)を開催し、それぞれの研究を交流したほか、インターネット上に形成されるコミュニティが教育や学習に与えうるインパクトについて実体験を伴いながらその可能性を議論できたことは大きなことであった。これについて、具体的には、以下の各日の研究協議を実施した。
【活動の日程】
- 第1回 5月8日 於 仲田研究室
研究協議と方向性の確認 - 第2回 6月30日 於 教職課程センター事務室
研究協議とweb会議の開催についての打ち合わせ - 第3回 8月12日 於 各自のオフィス
web会議システム(zoom)を利用した研究協議 - 第4回 10月9日 於 仲田研究室
研究協議 - 第5回 2月13日 於 仲田研究室
次年度の方向性について
中国古代研究 ―出土資料と伝世文献―
- 代表者
- 吉田 篤志
研究員の活動内容
馬王堆漢墓の帛書や郭店楚墓の竹簡の発見は、戦国・秦・漢時代の戦国・秦・漢時代の研究に新たな資料や視点与えることになった。その後、湖北省・湖南省を中心に多数の竹簡(楚簡・秦簡)が発掘・発見(含盗掘簡)された。「上海博物館蔵戦国楚竹書」「清華大学蔵戦国竹簡」「嶽麓書院蔵秦簡」「北京大学蔵漢簡」等が整理出版された。これらの竹簡の内容は既存文献と内容が近似しているものもあり、また全く新たな内容のものもあり、これらに対する研究が盛んにおこなわれ、研究成果が逐次報告されている。
当研究班は、これ等の研究成果や新たな出土資料を用いながら、中国古代文化(歴史や思想)の新たな面を解明しようとするものである。研究班構成員は吉田篤志・成家徹郎・吉冨透・西山尚志の4名であり、研究会については、吉田と成家は適宜行い、吉冨・西山とは通信による情報交換を主とした。著書・論文・報告書(含字書・索引等)等の出土資料研究に関する資料の蒐集は主に吉田が担当した。
吉田は、「清華大学蔵戦国竹簡」に収載する「傅説之命」甲乙丙三篇を中心に、古典文献の『尚書』「説命」との比較を通して釈読を試みた。また研究報告会では、中国陝西省の周原遺跡や周公廟遺跡の出土資料と『詩経』『史記』等の古典資料から周初の歴史や文化について論じた(「『詩経』と出土文物から見る周人の故郷」人文科学研究所研究報告会、2017年12月)。
成家は、「チナCina(シナ)」の語源は、従来「秦」から来ているとされているが、それは誤りで、紀元前4世紀頃のカウティリアという人の政策を記録した『実利論』に「Cinaの絹」とあるのが初見で、古代インド人が蜀国開明王朝の都「成」(四川省成都)を「Cina」と表示したとし、その研究成果を報告した(「チナ(Cina/China)の語源」『人文科学』第23号、2018年3月)。また長年取り組んできた日本人の『説文解字』に関する研究をまとめて、その成果を報告した(人文科学研究所研究報告書『説文解字の研究』〈日本人編〉、2018年3月)。
【活動の日程】
- 5月25日(木)12:30〜16:00 於板橋校舎吉田研究室
研究状況の報告、及び情報交換。「研究報告書」送付リストのチック。 - 7月6日(木)12:30〜15:30 於板橋校舎吉田研究室
研究状況の報告、及び情報交換。書道学科河野教授主催展示会見学。 - 9月21日(木)12:30〜15:30 於板橋校舎吉田研究室
『人文科学』(成家)の進捗状況の報告。図書館にて研究機関の紹介状申請。 - 12月2日(土)11:00〜12:30 於板橋校舎吉田研究室
『人文科学』『研究報告書』(成家)の進捗状況の報告。
13:00~14:40 於大東文化会館(K-301)
人文科学研究所研究報告会に参加。吉田は研究報告。
14:50~17:00 於東武練馬研究報告会の反省会、及び情報交換。 - 3月28日(水) 12:30〜15:30 於板橋校舎吉田研究室
『研究報告書』印刷の問題点の報告。次年度の研究計画について。
中国書法史の文献学的研究
- 代表者
- 澤田 雅弘
研究員の活動内容
本研究班の第一の目的であった『法帖提要索引 人名篇』を、昨年度末に刊行後、ただちに第二の目的である達受(僧名は六舟1791~1858)所蔵過眼金石書画類目錄の編集準備に移行した。達受は高名の鑑蔵家であるほか、青銅器の全形拓・磚硯の製造技術でも高名を馳せ、金石僧の異名をとった僧侶で、自編年譜『宝素室金石書画編年録』のほか、金石に関わる詩や跋も一定数あり、嘉慶から道光にかけての金石学・金石趣味の実態や関心の傾向を考察するうえで重要な意義を有すると考えている。
すでに読了した『宝素室金石書画編年録』について、次年度以降の研究のめどを立てるべく、達受所見の金石書画の抽出と記録の整理の在り方を協議したのち、作業に入った。この整理作業に当たったのは本研究班のうち兼任研究員である中村薫、渡邊亮太、栗躍崇の3名と澤田(代表)の4名であるが、栗は年度初めに学位申請論文を提出して9月に学位を取得して帰国したことで、作業の関わりは半期のみとなった。このほか当班研究員ではないが、本学大学院書道学専攻博士課程後期課程の川内佑毅・陳俋佐・池田絵理香の三氏の加勢を得た。なお、中国で勤務する兼任研究員の丁成東はこの作業には関われなかった。
また上記と並行して、高田智仁(兼任研究員)、澤田がそれぞれ以下の研究を進め、その成果をそれぞれ年度末に公刊した。すなわち髙田は『中国書画家鑑蔵印文索引』の編集を進め、適時、澤田とEメールで連絡や意見交換を行い、本研究所の冬季研究報告会には同索引編集の意義と進捗を報告し、今年度末に公刊した。なお同索引の校正には、本学大学院書道学専攻博士課程前期課程修了の西原 歩氏の協力を得た。一方、澤田は『法帖提要』(『説帖』を含む)所見の法帖摹勒者・法帖刻者名の検出を進め、容庚『叢帖目』、丁福保・周雲青『四部総録芸術篇』補遺法帖の記事をもって補った「法帖提要等所見摹勒者刻者名等一覧」を編集し本研究所紀要『人文科学』第23号に掲載した。
(Ⅰ)達受所蔵過眼金石書画類目錄(仮名)の編集準備
(Ⅱ)『中国書画家鑑蔵印文索引』の編集公刊
(Ⅲ)「法帖提要等所見摹勒者刻者名等一覧」の編集公刊
【活動の日程】
- 4月27日(木)
(Ⅰ)抽出事項の整理方針について協議(於澤田研究室) - 5月25日(木)
(Ⅰ)整理作業上の問題点について意見を交換(於同上) - 6月22日(木)
(Ⅰ)進捗の確認と今後の見通しについて意見を交換(於同上) - 7月13日(木)
(Ⅰ)問題点の有無と進捗の確認(於同上) - 10月5日(木)(Ⅰ)同上
- 11月30日(木)
(Ⅲ)『人文科学』に澤田が原稿を提出 - 12月2日(土)
(Ⅱ)冬季研究報告会(於大東文化会館)で高田が口頭発表 - 1月22日(月)
(Ⅰ)次年度の研究班申請を提出。(後日、承認された) - 1月26日(金)
(Ⅱ)本研究所研究報告書の一冊として髙田が原稿を提出
日本文学における歴史的事象の研究
- 代表者
- 美留町 義雄
研究員の活動内容
本研究班では、明治以降の日本文学を題材にして、近代化にともなう歴史的な変遷に目配りをしつつ、その時代性の中で文学テクストを読み直す作業を行ってきた。基本的には、研究員の専門とする作家を扱い、研究会で口頭発表を行い、質疑を通じて多角的に批評しながら、それぞれの研究を深めるという作業を行った。以下にその成果をまとめる。
滝口明祥研究員は、論文「『若草』における井伏鱒二ー「第二義的」な雑誌と作家の関係」(小平麻衣子編『文芸雑誌「若草」-私たちは文芸を愛好している』翰林書房、2018年1月)において、1920年代から戦後にかけて刊行された文芸誌『若草』を取り上げ、「二流」の雑誌としてこれまであまり目が向けられてこなかったこの媒体の意義を問い直している。ここで滝口氏は、井伏鱒二を例に取りながら、同誌が一方では実験的な作品を発表する場となっており、また他方ではまだ人気作家とは言えない作家たちの生活を物質的に支えるものの一つであったことを明らかにした。
中山弘明研究員は、論文「神崎清の戦後―文学の〈基底〉を割る―」(日本文学協会編『日本文学』67号2018年1月)において、明治文学の研究に資料的な面から関与した神崎清という批評家に焦点をあてた。中山氏は、神崎の戦後の足どり、つまり、戦前はタブーとされた大逆事件の資料調査をいちはやく開始し、それと並行して、近代女性史の発掘にも尽力し、戦後はそれを売春と基地問題として追及した活動を検証している。中山氏によれば、神崎の仕事の特質は徹底した資料調査と聞き取りにあり、その考証を通じて、文学研究・大逆事件・売春基地の問題を、一繋がりの問題系として探る可能性が開けるのである。
関谷由美子研究員は、論文「「硯友社一面 明治20年代の想像力―「心の闇」の〈出世主義〉―」(大東文化大学人文科学研究所編『人文科学』23号2018年3月)において、尾崎紅葉「心の闇」を扱い、若い盲人の妄執を抱く怪談めいた心理小説として評価されてきたテクストを、明治新政府の政策であった当道座の解体という観点から読み直している。関谷氏は、江戸時代までの当道座が瓦解することにより、盲人の主人公が歴史的棄民となる点に注目し、この小説の差別的側面を、当道座をめぐる制度史から浮き彫りにしている。さらに氏は、この視角から、佐の市の絶望の内実を検討し、同じく被差別者である島崎藤村「破戒」〈明治29年)の丑松の嘆きを先取りした近代の青年として「佐の市」の造形の分析を試みると同時に、これまでほとんど顧みられなかった、紅葉が近代初の公害事件である足尾銅山の問題に如何に鋭く切り込んでいるか、をも明らかにしている。
下山孃子研究員は、論文「大江健三郎『燃えあがる緑の木』の〈教会〉-「信仰を持たないもの」の祈り-」(大東文化大学日本文学会編『日本文学研究』57号2018年3月)において、大江の『燃えあがる緑の木』を信仰・神に関する認識を孕む長編小説として捉え、作中の「教会」は、コラージュとしての「福音書」の数々を有し、キリスト教の枠組みを借りながら、誰でもどこでもイエス(救い主)足り得る、という可能性を示すものと解釈している。その意味で、下山氏はこのテクストを特殊な第五福音書とも言えると評価している。
【活動の日程】
- 2017年9月30日(土)10:00~16:00 於多目的ホール
(下山研究員が実行委員長をつとめる「島崎藤村学会第44回全国大会」の場で、研究員が集まり、質疑・意見交換を行った) - 2018年2月19日(月)15:00~17:00 於日本文学科会議室
研究発表:中山弘明「神崎清の戦後―文学の〈基底〉を割る―」関谷由美子「「硯友社一面 明治20年代の想像力―「心の闇」の〈出世主義〉―」および、新規加入研究員の紹介
※次年度より、黒田俊太郎氏(鳴門教育大学准教授)を新たに研究班メンバーとして迎える
東アジアの美学研究
- 代表者
- 河内 利治
研究員の活動内容
我々の共同研究班「東アジアの美学研究班」は、本研究班の前身である「中国美学研究班」の成果を踏まえ、研究範囲を中国から東アジアへと拡大し、より本格的な研究を行うことによって、2006年度の所報で述べた最終目標に向かっていくことを目的として立ち上げたものである。その目標とは、「美学」という概念のもとにこれまで各分野で個別に検討されてきた「範疇語」、あるいは「概念語」の内容をできるだけ総合的、論理的に説明することである。
今年度(2017年度)も引き続きその目標に向かってさまざまな角度から研究を推し進めた。研究活動は、まず、報告者がそれぞれのテーマに沿って30分~60分の報告をし、その後、その報告に基づいて研究員が全員で討論するという形式で行っている。
2017年度の本研究班の活動は、分野で言えば、美学全般に関する問題から、詩論、書論、画論、印論(篆刻論)、小説論における個別の問題、さらには現代の美学研究者の美学思想の問題にまで及び、時代で言えば、先秦から現代にまで及んでいる。
今年度活動を行った日時・場所、内容および報告者は次の通りである。なお、活動の成果は『中国美学範疇研究論集』(第六集)にまとめ、刊行した。
【活動の日程】
- 第一回 4月24日(月)(18:00~20:00)於大東文化会館K-401、402教室
年度初めの打ち合わせ - 第二回 5月29日(月)(18:00~20:00)於大東文化会館K-404教室
「『毛詩』小序研究序説」(荻野友範) - 第三回 6月26日(月)(18:00~20:00)於大東文化会館K-404教室
「文芸にまつわる「風」について」(秋谷幸治) - 第四回 7月31日(月)(18:00~20:00)於大東文化会館K-404教室
「中国印論における「神」の特性」(川内佑毅) - 第五回 9月25日(月)(18:00~20:00)於大東文化会館K-404教室
「唐代までの書論における〈和〉について」(池田絵理香)*オブザーバー班員 - 第六回 10月30日(月)(18:00~20:00)於大東文化会館K-404教室
「唐代伝奇「鶯鶯伝」の反復される表現―張生はどのように変化したのか」(葉山恭江) - 第七回 11月27日(月)(18:00~20:00)於大東文化会館K-404教室
「中国書道史の唯物論 序説」(亀澤孝幸) - シンポジウム〈書の芸術性〉の伝統と未来
9月23日(土)(13:00~16:30)於大東文化大学板橋校舎3-0111
【主催】日本学術振興会科学研究費補助金 美学・芸術諸学〔基盤研究C(一般)〕
「書の芸術性に関する術語と現代学者の解釈をめぐる比較研究」(研究代表者:河内利治/研究分担者:藤森大雅)
【後援】大東文化大学書道研究所/大東文化大学人文科学研究所「東アジアの美学研究班」
【基調講演1】高建平氏「中国と西洋、書と画に対する異なる概念」
【基調講演2】邱振中氏「書法理論の新概念」
【座談会】テーマ:〈書の芸術性〉の伝統と未来
登壇者:河内利治 邱振中 高建平
なお上記のシンポジウムを含む下記の、平成27年度〜平成29年度科学研究費補助金〔基盤研究C(一般)〕研究報告書(課題番号:15K02119)が刊行された。
『書の芸術性に関する術語と現代学者の解釈をめぐる比較研究』 発行所:大東文化大学河内利治研究室 平成30年3月5日