研究所の活動/Report
2020年度 研究班活動報告
「言語学・文献学」研究班
- 代表者
- 猪股 謙二
今年度の第1班の研究活動は昨期同様4名の研究員による言語変化に関わる諸問題を各研究員が専門とする個別言語の諸相を研究し合いより普遍的な言語変化の在り様を探り言語変化の本質を探ることであった。
研究員の活動内容
文法範疇の数はいったいどれだけあると考えるべきであろうか。この問に答える時の基準となる言語、時代、言語文化はどのように設定すべきであろうか。この研究班のスタンスは広範囲に至っておりひとつの言語の範疇でさえ歴史的変化の検証とその文献の調査等を開始したばかり、例えば、動詞類、名詞類の範疇はどんな数から成り立っているのであろうか。これらの問題は、形式(form)と意味(meaning)の対立を軸として考察することになる。しかし、これは簡単なことではなく、特に、意味的な概念が関与するものとなると広範囲に関連する事象に踏み込むことになる。研究員の研究対象としている言語は多岐にわたり語族もことなることから大きな目標を掲げていた。今年度はコロナ関連で一堂に会することができずに研究成果も小池研究員が研究報告会11月28日(土)に研究発表を行ったにとどまった。
【活動の日程】
- 「夏季研究会」2020年7月28日(火)、18:00~17:00
研究員の研究課題の確認と年間研究計画の提示 遠隔通話会議 - 「冬季研究会」2020年12月16日(水)
研究委員の図書購入予算の執行状況の確認次年度以降の研究班について 18:00~17:00 メール会議 - 「春季研究会」2020年3月16日(火)、14:00~15:30
研究員の研究活動報告会及び今年度の活動内容の検討と予算執行状況の確認 遠隔通話会議
今年度はコロナ関連の制約の為にZoom会議にて実施
通話会議
今年度はコロナ関連の制約の為にZoom会議にて実施
地域文化と教育実践
- 代表者
- 厚 香苗 (報告者 田尻敦子)
本研究班においては、人文科学研究所の「b.こども像の変遷」というサブテーマのもとで、「地域文化と教育実践」という研究課題を設定し、調査、研究、発表を行った。人々が共同体に参加して学ぶ過程で、政治、経済、社会、歴史、科学、技術、環境、医療、福祉などの多様な文脈が編み込まれた実践が生まれる。こうした多様な共同体に参加する学びに焦点を当てて、教育、福祉、保健、医療など、多様な分野の研究者が学際的な研究を行った。研究員は、インドネシア、マレーシア、アフリカ、ブラジル、日本など、多様な地域でフィールドワークを行い、超域的研究を行った。メンバーの研究成果は、人文科学研究所紀要や、人文科学研究所研究報告会などで発表し、各自が学会論文や学会発表や紀要論文などに発表した。
【活動の日程】
- 5月18日(月) メール会議
新年度の研究計画や執筆予定、研究体制や分担などの打ち合わせ
新型コロナウィルス感染症予防の観点から研究計画や打ち合わせ方法等の見直し - 6月9日(火) メール会議
昨年度(2019年度)の研究報告書の作成にあたり、執筆担当者を決め、研究をふりかえり、新年度の研究体制に向けて打ち合わせを行った。 - 6月29日(火)メール会議
研究報告会の報告者や内容などの打ち合わせ - 10月12日(火) メール会議
研究報告会や研究体制の見直しや打ち合わせ - 令和2年度研究報告会 11月28日 報告者 田尻敦子
テーマ 地域の実践共同体へ参加する総合的な学習の時間の理念と評価~子ども達の対話をもとに学びを深める教育方法の実践~ - 11月20日(金) 『人文科学』原稿提出 執筆者 田尻敦子
ICT を活用した総合的な学習の時間の年間指導計画と単元計画─チーム学校として協働的に紡ぐカリキュラム・マネジメント─
出土資料による中国古代文化の研究
- 代表者
- 吉田 篤志
殷周時代の文化を研究する上で発掘資料は欠かせない。発掘資料の中でも文字資料を利用した研究文献は毎年かなりの量に上り、甲骨文・金文・簡牘・帛書についての古文字研究は特に多い。『古文字研究』『古文字学』『簡帛研究』等が毎年出版され、また多数の竹簡(楚簡・秦簡)が発掘・発見(含盗掘簡)され、『上海博物館蔵戦国楚竹書』『清華大学蔵戦国竹簡』『嶽麓書院蔵秦簡』『北京大学蔵漢簡』等が継続して出版されている。
当研究班は、これ等の出土資料を用いながら、中国古代文化(歴史や思想)の新たな面を解明しようとするものである。研究班構成員は吉田篤志・成家徹郎の2名であり、今年度は新型コロナウイルス感染症流行のために面接での研究会はできるだけ避け、オンラインによる情報交換を適宜行った。出土資料研究に関する著書・論文・報告書(含字書・索引等)等の蒐集は主に吉田が担当した。
吉田は、『商周古文字読本』の甲骨文読解例を大学院生と訳出した(『中国学論集』第36号 2021年3月)。成家は、「傅抱石:日本における学業および郭沫若との交流」を『人文科学』第26号(人文科学研究所 2021年3月)に掲載した。
【活動の日程】
- 10月5日(月) 12:30〜14:30 於成家宅
『人文科学』(成家)の進捗状況および情報交換、出土資料関係図書の整理。 - 11月28日(土) 13:00~15:10 於自宅(Zoom)
研究報告会(全4班)に参加 - 12月12日(土) 13:00〜17:00 於自宅(Zoom)
中国出土資料学会の大会に参加 - 3月20日(土) 12:30〜15:30 於自宅(Zoom)
『人文科学』(成家)の進捗状況および情報交換。
中国鐫刻基盤研究
- 代表者
- 澤田 雅弘
碑や墓誌をはじめとする比較的謹厳に造られる石刻の製造過程には、揮毫(石上に朱書、または紙上に墨書)と鐫刻の両側面が介在する。また、一般に粗略に造られる塞石・黄腸石などの石刻においては、揮毫を経ずに直接鐫刻したと思われるものが多い。文字の鋳造過程が未詳の殷周青銅器等を除けば、材質が骨・板・金属であっても、必ず鐫刻が介在する。すなわち、中国書法史上、圧倒的多数の古典書跡には必ず鐫刻が介在するが、鑿による表現を誇張する一部石刻を除いて、旧来、鐫刻に対する視座が極めて薄弱で、石刻から筆法を読み取ることで書法史を構築してきたがために多くの誤認を犯してきた。澤田は多年この旧弊を是正すべく、刻法の視座から墓誌・碑版に関する新知見を多く提出してきた。今年度、若い研究者数名とともに研究班を組織し、鑿・印刀のほか、鐫刻に準ずる文字表現手法として鋳造を含めた視座から、各種金石文字の諸相を研究することとなった。現時点における研究員の研究対象は次のとおりである。
安藤喜紀:黄腸石 小西優輝:骨簽 権田瞬一:篆刻 澤田雅弘:碑版・刻帖 中村 薫:題名摩崖 栗 躍 崇:古璽 丁 成 東:碑版
【活動の日程】
初年度は、研究員それぞれが設定した研究対象に沿って研究を進めた。新型コロナウイルス感染予防の観点と海外にいる研究員2名の事情も配慮して、組織当初計画していた中間報告の集会は開催しないこととし、全てリモートワークの方法で、研究の進捗報告、『人文科学』誌投稿者の選出、次年度刊行予定の当該班研究報告書掲載の各研究員の論考仮題目の提出、その他情報交換等を行った。
- 4月13日(月) 年間計画の打ち合わせ
- 5月23日(土) 研究進捗報告の交換
- 6月13日(土) 『人文科学』投稿者の決定
- 8月22日(土) 研究の進捗報告の交換
- 11月12日(木) 安藤が論文を『人文科学』に投稿
- 12月12日(土) 研究報告書掲載論考の仮題目・研究方針の交換
- 3月5日(金) 研究報告書執筆要項案の作成、意見の交換
東アジアの美学研究
- 代表者
- 河内 利治
われわれ東アジアの美学研究班は、本学が採拓を受けた「私立大学研究ブランディング事業」の学内8つの研究チームのひとつ「“道”研究」チームとして、2018年度より“道”と“書”をめぐる漢学・書道の知的資源の基盤整備を目標とする研究に取り組んでいる。このため本年度の研究活動も、昨年度にひきつづき“道”に関するものが中心となった。しかしこれは、私たちの研究班が掲げた当初の目標と無関係なものではない。“道”はまずもって東アジアに共有される道徳的カテゴリーであるといえるが、善と美とを不可分で一体のものとしてとらえる東アジアの思想において、それは美学のあり方をも規定しているからである。
【活動の日程】
- 第一回 6月17日(水)(10:00~12:00)オンライン
年度初めの打ち合わせ - 第二回 7月15日(水)(10:00~12:00)オンライン
「“道”研究」今年度の活動計画についての打ち合わせ - 第三回 9月28日(月)(18:00~20:00)オンライン
「“道”研究」書道班報告(報告者:川内佑毅) - 第四回 10月26日(月)(18:00~20:00)オンライン
「“道”研究」論語班報告(報告者:秋谷幸治) - 第五回 11月30日(月)(18:00~20:00)オンライン
「書字の力学」(報告者:亀澤孝幸) - 第六回 12月21日(月)(18:00~20:00)オンライン
「陶淵明の『天』と『道』」(報告者:三枝秀子)
新型コロナウィルス感染症の拡大により、本年度は対面で研究会を開くことがかなわず、すべてオンラインで実施せざるをえなくなった。共同研究にとっては困難の多い一年であったが、他方で、普段はなかなか参加できない遠方からの参加者も増え、活発な議論がなされたことは思わぬ収穫であった。東アジアの美学研究班は、その前身である中国美学研究班を発展させるかたちで2011年にその活動を開始した。本年度をもって丸10年が経ったことになるが、私たちが目指す東アジアの美学の究明はいまだ道なかばである。さらにつぎの10年を見据え、「東アジア美学史研究」班として、この共同研究を発展させていきたいと考えている。
日本文学における歴史的事象の研究
- 代表者
- 美留町 義雄
本研究班では、明治以降の日本文学を題材にして、近代化にともなう歴史的な変遷に目配りをしつつ、その時代性の中で文学テクストを読み直す作業を行ってきた。基本的には、研究員の専門とする作家を扱い、研究会で口頭発表を行い、質疑を通じて多角的に批評しながら、それぞれの研究を深めるという作業を行った。以下にその成果をまとめる。
美留町義雄研究員は、2021年3月23日、ドイツ大使館主催のオンラインセミナーに司会兼パネリストとして登壇し、テーマである「文豪森鷗外の見たドイツ」について、鷗外のドイツ三部作を中心に、ミニ講演+討議を行った。
滝口明祥研究員は、人文科学研究所主催の研究報告会(11月28日)にて以下の題目で口頭発表をした:太宰治「女生徒」と豊田正子『綴方教室』―戦時下における女性と女工
中山弘明研究員は、論文「尾崎秀樹と雑誌『中国』―文革体験/学問史」【『G-W-G minus』(4) 2020年5月】を執筆し、さらに下記の研究会で口頭発表を行った。
下山孃子研究員は、論文2本を執筆。「藤村のイブセン受容―『ロスメルの家』を中心に―」(『島崎藤村研究』第47号、2020年9月)では、〈黒船=西洋〉を〈幽霊〉と見るイブセンからの示唆を基に、〈新生事件〉を経て人間の個人認識、男女両性問題への深まりを見せたその推移を『ロスメルの家』を基に跡付けた。「『門』―宗助の〈参禅〉―」(『人文科学』第26号、2021年3月)では、テクストの空白を読み解きつつ、宗助の〈参禅〉の内実を新しい角度から捉える試みを提示した。
木村陽子研究員は、論文「「再話」がつなぐ「感謝する死者」の物語」【『昭和文学研究』第81集、2020年9月所収】を執筆し、小泉八雲の「再話」から着想を得た劇作家・前川知大が、個性的な翻案手法を獲得し、八雲の『怪談』の翻案としての『奇ッ怪』という作品を生み出し、同作品が前川にとって、その後の翻案作品群を展開する画期となったことを論証した。
山田悠介研究員は、論文「草木の〈とき〉――石牟礼道子『あやとりの記』を中心に」【『EAA Booklet 15 石牟礼道子を読む――世界をひらく/漂浪(され)く』東京大学東アジア藝文書院、2021年2月所収】を執筆し、石牟礼道子の文学テクストに登場する自然物(植物)が、単なる背景ではなく、小説やエッセイのなかの〈過去〉と〈現在〉を結びつける「主体」としての役割をもつことを明らかにした。
関谷由美子研究員は、『21世紀の宝塚歌劇』(井上理恵・鈴木国男との共著 2020年4月・社会評論社)を出版。悲劇8編「ニジンスキー」「グレイト・ギャツビー」「不滅の棘」「春の雪」「金色の砂漠」「月雲の皇子」「ネバー・セイ・グッドバイ」「ポーの一族」を解説、芸能史としての宝塚歌劇および男役について論じた。
黒田俊太郎研究員は、論文「ボトル・メッセージはどこに配達されたか―中島直人「布哇生まれの感情」を読む」(『鳴門教育大学研究紀要』36巻、2021年3月)を執筆し、1920年代の日系二世問題を踏まえつつ、―中島直人「布哇生まれの感情」を分析した。
千葉一幹研究員は、NTT出版より2021年2月に出版した『コンテクストの読み方』を執筆した。その著作では、種々の文学研究法を実例を挙げながら解説を行った。また、同書では夏目漱石の『三四郎』『それから』『門』『こころ』『道草』などの作品の分析も行った。
鈴木啓子研究員は、2020年11月28日のZOOMオンライン研究会において、自らの研究教育履歴と、高校生・大学生を対象とする監修書『マンガで楽しむ名作 日本の文学』(ナツメ社 2018年11月)の制作意図や経緯を振り返り、日本近代文学を読み、近代文学史を教える今日的意義や方法について体験に即して考察した。
【活動の日程】
- 2020年6月21日(日)15:00~17:00 於大東文化会館
➡コロナ禍により中止 - 2020年8月16日(日)15:00~17:00 Zoomにてオンライン開催
研究会にて発表:中山弘明:「尾崎秀樹と雑誌『中国』―文革体験/学問史」を読む - 2020年11月28日(土)13:00~17:00 Zoomにてオンライン開催
人文科学研究所研究報告会にて研究発表:滝口明祥:太宰治「女生徒」と豊田正子『綴方教室』―戦時下における女性と女工 - 2020年11月28日(土)15:00~17:00 Zoomにてオンライン開催
研究会にて発表:鈴木啓子:『マンガで楽しむ名作 日本の文学』を読む - 2021年2月20日(土)15:00~17:00 Zoomにてオンライン開催
研究会にて発表:千葉一幹:『現代文学は「震災の傷」を癒やせるか』を読む