Report

2022年度 研究班活動報告

中国三教と景教の相互交渉

代表者
武藤 慎一

活動の内容

今年度の第1班の研究活動は昨年度に引き続いて、5名の研究員によって、2006年に発見された新たな景教碑(洛陽碑)における中国三教と景教の相互交渉を探ることであった。
まず、最重要テクスト「洛陽碑」後半の「大秦景教宣元至本經幢記」の後半部分を共同で分析した。次に、それぞれの教の専門家が間テクスト性を指摘した。具体的には、他の景教テクストとの間テクスト性を武藤研究員が主に担当した。同様に、道教テクストとのそれを高橋研究員が、仏教を宮井研究員が主に担当した。また、儒教を湯城研究員が、景教の影響作用史を新居研究員が担当した。
方法としては、「洛陽碑」の狭義の文脈と広義の文脈の両方を研究する方法を採った。具体的には、まず共同でテクストの邦訳とその註釈を行って、全体のテクスト内照応を明らかにした。次に、テクストの各々の部分の背景として、三教の多くのテクストとの照応関係を広く辿っていった。最後に、相互に発見したテクスト外照応関係のある可能性があるテクストを持ち寄り、それぞれのテクストと「洛陽碑」のテクスト内照応とを照らし合わせていった。
今年度の研究成果発表としては、まず武藤研究員が2022年6月23日に、ボローニャ大学で開催されたEuARe(ヨーロッパ宗教学会)の2022年次大会で、”The Taoist and Christian Foundations for Diversity in Jingjiao in Tang China(唐代の中国景教における多様性の道教的・キリスト教的基盤)”と題してZoomで口頭発表した。また、新居研究員が2022年度発刊の『人文科学』に論文「景教の中国伝来はヨーロッパでどのように語られたのか—ヨーロッパ・シノロジーと清代金石学の接触」を発表した。

活動の日程

  • 第1回 2022年6月10日(金) 16:30~18:00 今年度の研究会の打ち合わせ、研究報告(武藤) (Zoom開催)
  • 第2回 2022年8月19日(金) 10:30~12:00 「洛陽碑」後半の「大秦景教宣元至本經幢記」後半部分読み合わせ (Zoom開催)
  • 第3回 2022年10月24日(月) 16:30~18:00 「洛陽碑」後半の後半部分読み合わせ (板橋キャンパス歴史文化学科会議室にて、対面開催)
  • 第4回 2022年12月26日(月) 11:00~12:30 「洛陽碑」後半の後半部分読み合わせ (Zoom開催)
  • 第5回 2023年2月28日(火) 16:15~18:45 「洛陽碑」後半の後半部分の読み合わせ完了、今年度のまとめ (板橋キャンパス歴史文化学科会議室にて、対面開催)

グローカルな学びの変遷

代表者
田尻 敦子

研究活動内容

本研究班では、ローカルなコミュニティに根差したグローバルな学びの生成と変容に焦点を当てて研究を行った。教育、福祉、医療などの連携を目指し、多様な学問的共同体に根差す専門家と共に探究を行った。研究班のメンバーは、文化人類学や産業看護学、児童福祉や社会福祉、国際協力や地域文化研究、芸術学の専門家も研究員のメンバーとして、活動を行っている。地域的にも、アフリカやマレーシア、インドネシア等、多様な地域に根差したメンバーで研究を行っている。
今年度は、ミーティングや研究打ち合わせなどを感染症対策に留意し、可能な範囲でオンラインを活用して行った。インドネシアのバリ島のメンバーともオンラインでミーティングを行った。

研究業績

昨年度、人文科学研究所の紀要論文2本と人文科学研究所報告書記載論文6本の作成を昨年度行ったため、今年度は、紀要や報告書作成は行わなかった。人文科学研究所研究報告会では、発表を行い多様な分野の貴重なご意見を伺い、研究に生かすことができた。研究班のメンバーは、それぞれ、自分たちが所属している研究機関や学会などで発表を行った。

田尻敦子 2022.11.26 総合的な学習の時間における地域との連携:社会教育施設を活用した特別支援学級との交流及び共同学習 大東文化大学人文科学研究所報告会

研究活動日程

  • 4月23日(土) 13:00-15:00 Zoomミーティング
    今年度の研究計画やミーティングスケジュールの打ち合わせ
  • 7月23日(土) 13:00-15:00 Zoomミーティング
    研究の進捗状況の確認や予定などの打ち合わせ
  • 9月17日(土) 13:00-15:00
    研究の進捗状況の共有と今後の研究計画の練り直し
  • 10月29日(土)13:00-15:00
    収集した研究資料の発表と検討
  • 11月26日(土)13:00~ 人文科学研究所(板橋校舎2号館2-220及びZOOM)
    研究発表(発表者:田尻敦子)
  • 12月10日(土)13:00-15:00
    研究発表と意見交換

中国鐫刻基盤研究

代表者
澤田 雅弘

本年度から2年間、安藤喜紀・小西優輝・権田舜一・中村薫・栗躍崇の5氏と代表者澤田の6名で新たな研究班を組織した。本研究班は前年度末に2年の研究期間を終えた「中国鐫刻基盤研究班」の研究目的を継承する。研究班名に含めた鐫刻や鉤摹は、甲骨文・刻款金文・石刻・古璽・篆刻・摹本・刻帖・版刻…等々、伝世字跡の多くに根本的要素として潜在する。字跡を鐫刻したものには鐫刻者が介在し、名筆の複製や刻帖にも鉤摹が介在する。そのことは字跡上に鐫刻者・鉤摹者の解釈や技術が必然的に反映して、鐫刻あるいは鉤摹が介入した時点で、筆跡そのものでなくなっていることを意味する。
このように、書法璽印等の研究には鐫刻・鉤摹研究は不可欠であるが、その研究は未開拓といってよい状況で、研究の蓄積が極めて乏しい。したがって、何が問題でどのように解決すべきか、全てがこの手探りから始めなければならない。当然、ひとつ糸口をつかめば多くの課題が連なって現れて三思九思せざるをえないが、新領域を開拓する意義と魅力は何ものにも代えがたい。
中国書跡の鐫刻鉤摹研究班では、この意義と魅力を共有する研究員が集い、個々の関心の向かうところにしたがって、この大きな課題にさまざまな角度からアプローチしている。
今年度は2年間の研究期間の初年度に当たり、当初は次年度末に研究報告書を刊行する計画でいたが、それだけでは研究成果の全編を収録しきれない恐れが生じため、急遽、研究員との意見交換を経て、成果の一部分を収録する『碑刻題記・璽印陶文・印人学殖の基礎研究』(A4版全136頁)を刊行した。この報告書には、栗「燕国璽印及び陶文印跡廿三件解題」、権田「河井荃廬の著作-「書学印学資料集成(一)」-」、安藤「漢代碑刻題記の製造者に関する考察」の三篇を収録した。次年度には当初計画のとおり6名全員の論考を収録する予定でいる。
なお、新型コロナウイルス感染予防の観点と海外所在研究員の事情も配慮して、対面による例会は開催せず、情報交換や研究進捗報告、意見交換等は、研究班代表を起点にEメール等のリモートワークで進めた。

活動の日程

  • 4月23日(土)  年間計画の確認
  • 5月 2日(月)  研究進捗報告の交換
  • 6月25日(水)  研究班研究報告書の臨時刊行について意見交換
  • 6月 5日(日) 『人文科学』投稿者を栗に決定
  • 7月 8日(金)  『人文科学』及び研究報告書の申込書を提出
  • 9月17日(土)  研究進捗報告の交換
  • 11月15日(火) 研究報告書執筆者の決定。書名・版型・版面の相談
  • 1月10日(火)  研究報告書の書名・台割・序等の最終確認
  • 1月13日(金)  研究報告書原稿一式(3月末発行)を提出
  • 2月 7日(火)  次年度の活動計画の相談と連絡

東アジア美学史研究

代表者
河内 利治

活動の内容

私たちは昨年度から「東アジア美学史」研究班として再出発した。そもそもの出発点は二十年前の「中国美学」研究班に遡るが、十年前にそれを「東アジア」へと空間的・地理的に広げた。さらに、時間的・歴史的な視点を導入することにより、東アジア美学の歴史を構築するという目標を掲げた。遠大な目標に向かって微力ながら一歩ずつあゆみを進めている。

活動の日程

  • 第一回4月25日(月)18:30~20:30(Zoom会議)
    年度はじめの打ち合わせ:『〈道〉研究論集』の刊行について
  • 第二回6月27日(月)18:30~20:30(Zoom会議)
    三枝秀子氏:『論語』の「道」と陶淵明の「道」
    秋谷幸治氏:現代中国人学者における『論語』の「道」解釈
    川内佑毅氏:書と「道」~書と儒家思想の関わり~
  • 第三回8月22日(月)16:00〜18:00 大東会館 K-404教室
    『〈道〉研究論集』に掲載する原稿の確認
    三枝秀子氏:「道」に任せた生き方への模索~陶淵明の詩文に見える「道」~
    秋谷幸治氏:成復旺訳注についての報告
    川内佑毅氏:進捗状況報告
  • 第四回 9月26日(月)18:30~20:30(Zoom会議)
    鈴木拓也氏:唐詩に用いられた『論語』中の「道」用例
  • 第五回10月31日(月)18:30~20:30(Zoom会議)
    論語班・書道班の進捗状況報告
  • 人文科学研究所主催研究報告会11月26日(土)13:00~15:00(Zoom開催)
    鈴木拓也氏(東アジア美学史研究班):唐詩に用いられた『論語』中の「道」用例
  • 第六回11月28日(月)19:30~21:30(Zoom会議)
    論語班・書道班の進捗状況報告

活動の成果

『〈道〉研究論集』2023年3月31日刊行。全240頁。目次は以下の通り。

  • 巻頭言:河内利治
  • 儒家の「道」と「道」に任せた生き方―陶淵明の詩文に見える「道」-:三枝秀子
  • 『論語』「道」字の唐詩における詩語使用について:鈴木拓也
  • 翻訳・成復旺著「自然、生命と文芸の道」
    ―中国古代文論における「道芸論」についての考察(3)―:秋谷幸治訳注
  • 『論語』に見える〈道〉をめぐる諸注解
    秋谷幸治・荻野友範・鈴木拓也・葉山恭江・宮下聖俊
  • 先秦文字資料にみえる〈道〉字の異体について[増補版]:亀澤孝幸
  • 中国書論における〈道〉の位相―唐代の「書道」用例をめぐって―:川内佑毅
  • 古代中国の書画家「道人」の「号」についての一観察:陳達明
  • 道と書:河内利治

また、【大東文化大学デジタルアーカイブス「道アーカイブス」】に「"道"作品」198点を公開した。
(参照)https://www.i-repository.net/il/meta_pub/G0000721daito

今後は、本成果を国内外に発信するとともに、さらなる高みを目指し、「道」を含む東アジア美学範疇の研究および「道」と「書」の現代的意義についての研究を進める予定である。

日本文学における歴史的事象

代表者
美留町 義雄

本研究班では、明治以降の日本文学を題材にして、近代化にともなう歴史的な変遷に目配りをしつつ、その時代性の中で文学テクストを読み直す作業を行ってきた。基本的には、研究員の専門とする作家を扱い、研究会で口頭発表を行い、質疑を通じて多角的に批評しながら、それぞれの研究を深めるという作業を行った。以下にその成果をまとめる。

今年度の研究活動

7月9日に、中山弘明研究員による口頭発表を行った。氏のテーマは、「学問史」つまり、近代文学研究の始発期を明らかにする研究である。特に、昭和初期の重要な研究組織である「大正文学研究会」について言及された。さらに、歴史家・田村栄太郎とその雑誌『風俗』の意義が報告され、くわえて、近代文学研究の始発期に重要な役割を果たした片岡良一、特に彼と「国際文化振興会」との関連について紹介された。
12月10日に、合評会を実施した。千葉一幹著『コンテクストの読み方』(NTT出版)を採り上げ、その本の趣旨を中心に話し合った。この本は、単に文学入門という意図だけなく、コロナ禍で不安の高まる時代に、人文学にできることは何かを伝えようとしたものである。前半では、様々な文学研究の技法について解説されているが、著者によれば、種々の文学研究の技法を知ることは、多様なコンテクスト(文脈)から物事を見ることを可能にする実践である。換言すると、固定的視点でなく、多角的に物事を見るということである。それは、文学研究に役立に留まらず、私たちの人生はより豊かにすることにつながるものだということ等が報告された。
2月11日に催された今年度最後の研究会では、全国共同制作オペラ『田舎騎士道(カヴァレリア・ルスティカーナ)』および『道化師』東京公演(上田久美子演出)の劇評が試みられた。とりわけ、同じ役柄を歌手とダンサーの二人一役で演じる「文楽スタイル」、さらに、歌詞の直訳に近い字幕と現代大阪を舞台に翻案した字幕との併用、という点について議論された。その際、日本のオペラ受容史が俯瞰され、西洋の演劇を日本風にアレンジするアダプテーション研究の可能性について話し合われた。

研究会の日程とテーマ

  • 2022年7月9日(土)16:00~18:00 Zoomにてオンライン開催
    中山弘明:近代文学研究の始発期の研究 ―学問史の観点より―
  • 2022年12月10日(土)15:00~17:00 Zoomにてオンライン開催
    千葉一幹:『コンテクストの読み方』(NTT出版、2021年2月)合評会
  • 2023年2月11日(土)15:00~17:00 Zoomにてオンライン開催
    大西由紀:韻文/翻訳/台本形式──研究歴紹介と『田舎騎士道/道化師』劇評

古典文学の享受に関する文献学的研究

代表者
德植 俊之

本研究班は、文学作品がどのように享受されていったのかを多角的に検討し、明らかにすることを目的とする。
研究班を立ち上げて2年目の本年度は、江戸時代に刊行された絵入版本を中心に取り上げ、『伊勢物語』と『徒然草』の絵入版本を収集・整理しながら、それぞれの挿絵から読み取れることや挿絵が含み持つさまざまな問題を検討した。その結果、特に、『嵯峨本伊勢物語』の挿絵に関していくつかの問題点が見出せたので、それらを中心に取り上げた。具体的には『嵯峨本伊勢物語』(和泉書院の影印本を使用)の挿絵をめぐって、嵯峨本以前の絵巻(『伊勢物語絵巻絵本大成』(角川学芸出版)に掲載された絵巻の図版を使用)の絵柄と、江戸期の版本(德植が収集した本を使用)の挿絵とを比較・検討したのだが、それぞれの絵柄の変遷を整理すると、嵯峨本第2図の従来の解釈に大きな問題が存することが明らかとなった。その成果は、2022年11月26日(土)開催の「人文科学研究所研究報告会」での德植俊之による研究報告に結実している。
本研究班の研究は、近世整版本のごく一部を取り上げたにすぎない。さらにこうした地道な検討を重ねていくことが重要であると再認識した。

活動の日程

  • 4月30日(土) 研究方針について打ち合わせ・研究方法の具体的検討
  • 6月11日(土) 研究検討会
  • 8月1日(月) 研究検討会
  • 9月17日(土) 研究検討会
  • 11月17日(木) 研究検討会
  • 11月24日(木) 研究検討会
  • 11月26日(土) 人文科学研究所研究報告会
    題目:『嵯峨本伊勢物語』挿絵考
    発表者:德植俊之