自分の目で見て感じるということ ――中国研修レポート――
メイド・イン・チャイナ、私たちが普段何気なく着ている洋服や、身につけている鞄、その多くがそれに該当している。身近であるにもかかわらず、中国に対する日本人のイメージがあまり良くないのはなぜだろう。「中国大丈夫!?」「生きて帰ってきてね」とバイト先の先輩や友人に声をかけられ、しまいには、「お土産何がいいですか?」という質問に対して「中国製の食べ物はいいや」という始末。今回の中国研修では、中国語の語学上達だけでなく、日本人が中国に対してどことなく良いイメージをもっていない理由、わけをしっかりこの目で見て、確かめたいと感じた。
もちろんテレビをつければ、隣国である中国の話題はトップニュースで取り上げられ、インターネットで調べれば、国土面積から人口、歴史までありとあらゆる情報があふれている。しかし、その活字で示された情報を鵜呑みにしていいのだろうか、もっと中国という国には私たちがまだ知らない素敵な部分があるのではないだろうか。中国語を学び始めた時から疑問を感じていた。世界中どこを見渡しても、完璧な国などない。欠点もあれば、その国にしかない素敵な魅力もあるはずだ。百聞は一見にしかず、それをふまえ、異文化理解はもちろん、今回の研修で学ぶべき事、学びたい事は山のようにあった。
唯一気がかりであったのは、初の引率の教員がいない研修において、学生リーダーとして皆をまとめることであった。皆、20歳を目前とした大人であるとはいえ、25人をまとめることができるのか不安であった。以下はリーダーとしての役目に奮闘しながら、中国を垣間見た3週間の記録である。
上海の空港に降り立った私は、むわっとした生暖かい空気に出迎えられた。日本と変わらない湿度の高さ、外国に来たという実感はあまり沸かなかった。ただこの3週間という短い時間の中で私は何を学び取り、日本へ帰ることができるのかわくわくしていた。
上海での生活は、午前中に2コマの授業、午後は自由時間というとても充実したプログラムであった。午前中の授業は、日本で受けている中国語よりも、発音重視で、自分の発音の不安定さを痛感した。また、先生の問いかけに対して恥ずかしさ、間違っているかもしれないという思いからか、なかなか授業がスムーズに進まないこともしばしばであった。先生方も、うつむく私たちを見て、あからさまな態度はとらないが、苦笑いをし、もどかしさを感じているのが見てとれた。日本人は、他の外国人と比べて大人しい、自分の意見を言わないと言われる所以が分かったような気がした。もっと日本人は積極的になるべきだと感じた。自分の番が来たら答えるという受動的態度ではなく、自ら行動する能動的態度をもつべきではないだろうか。私もそうなりたいと感じた。上海では、自分たちを日本人という枠で、客観的に見ることができた。
食に関しては、少し油っこいが美味しい料理ばかりであった。それよりも、大きなレストランや知り合いの家などでご飯をご馳走になる場合は、少し料理を残すという、食文化に関する中国の昔話は興味を惹かれた。日本は、作ってくれた人や生きているものに対する感謝の気持ちから、出された物を残さず食べるという礼儀があるが、上海においては、違和感を少し感じながらも、残すことで、美味しく頂きました。「十分にお腹いっぱいになりました」というメッセージを相手に送る中国の礼儀は素敵だなと感じたからであった。
3週間で外灘や新天地をはじめ、杭州や南京など多くの観光地へ足を運び、上海という異文化が混在した発展都市を巡り、その夜景の綺麗さ、町並みや建物や歴史を目にしてきたが、1番印象深かったのは「人」である。冒頭に述べた先輩方や友人と同じように、中国に対して良いイメージを抱いていなかった私は、中国に住む人々に対してもフィルターを通して見ようとしていた。しかし、それは間違っているとすぐに思い知らされた。もちろん、人それぞれ個性があって、一概に言えないが、皆私達日本人留学生に対して非常に親切であった。単語と単語を結びつけただけのような、たどたどしい中国語に耳を傾け、理解できない私達の為に、紙に書いて説明してくれたり、お会計の際に、合計金額が正確に聞きとれず、多めにお金を出すと、こんなにいらないとお金を財布の中にしまってくれたり。3週間で私がみた上海の人々は、来る前のイメージとはまるで逆であった。日本で知る情報はほんの一部であり、それで中国を知った気になってしまっていた私は愚かであり、視野の狭い人間であると気づいた。また、科学の進歩により、インターネットやスマートフォンという便利な道具ができ、ボタンを押せば知りたい情報が手に入る今の時代だからこそ、自分の目で、肌で感じることがどんなに大切で価値のあることか知ることができた。
さらに、20日という研修で学生リーダーとして皆をまとめることが出来たのかどうか分からないが、自分を一歩成長させてくれた事は確かであった。私自身優柔不断な性格で、皆を巻き込んで惑わすことがあってはいけないと思い、常にリーダーとして、あるべき行動を心がけた。リーダーが、皆を引っ張っていく者が、「どうしよう」「どっちにしよう」と迷っていては、頼りない。そんな決断力と判断力を試されたような気がする。周りの意見も聞くが、一人ひとりの意見に耳を傾けていたら、物事が全く進まない。リーダーという役目の大変さを感じた。
しかし、私だけの力ではない。3週間の研修中に、インフルエンザにかかったり、宿舎で風邪が流行ったり、南京では大雨にみまわれて皆がバラバラになってしまったり。様々なトラブルがありながらも、研修を成功させることが出来たのは、一人ひとりの研修を成功させたいという思いと、側で支えてくれた先生方、李さん、周さん、ガイドの方々、運転手の方々、皆の協力なければなし得なかった。この研修に携わった全ての人に感謝したい。
これからまた、大東文化大学での学校生活がスタートするが、今までとは違う「私」で望みたい。いや、上海研修を終えた私ならできるはずである。そう確信できる3週間であった。
文章:中国現地研修班学生リーダー 井澤菜々