「企業と雇用」第3セッションは「農業の魅力と展望」です。有限会社サニベルグリーンハウス代表取締役の間室照雄氏に講師をご担当いただきました。
1時間目(11月17日)
サニベルグリーンハウスでは、ガラス温室1,500㎡とビニールハウスなど2,000㎡の栽培室で、約50種類の野菜苗12万ポットと、パンジーやアリッサムなどの花苗5万ポット、ポインセチアなどの鉢花1万鉢を生産しています。また、会社に附設する園芸教室では、年間3,000名の受講者が学んでいるといいます。
ピーク時には1兆円産業と言われた花卉産業の売上げは、バブル崩壊後、減少の一途をたどっていると間室氏。生産者の高齢化による就業者数の減少や量販店の台頭による個人経営の減少などが原因だといいます。ただし、良品生産や目新しい品種を導入するなどの工夫により営業利益をあげている生産者もあり、サニベルグリーンハウスはその一つです。
農業の現状と課題
米価に代表されるような商品価格の低迷、生産者の高齢化と新規就農の減少による就労人口の減少、異常気象など気象条件に左右されやすい産業であること、人件費の上昇などによる「産業としての農業」のきびしい経営環境が具体的に説明されました。
間室氏は「農業は土壌に依存する産業」だと強調します。本来の農業は「自然と共生すること」。つまり、土地の気候風土に合った作物を選択し、年間労働を平均化でき、副産物を有効活用できるように作物を組み合わせることが必要なのだと。
現状を打開するには?
60年前の農業に戻ることができない以上、それでは農業の衰退状況をどう打開すべきか。機械化による労働生産性の向上とともに、農業をIOT等により装置産業化する方向があるといいます。花卉産業でいえば、プールベンチや自動潅水、炭酸ガス施肥、人工照明を利用して光を調整できる装置を備えた植物工場を建設することです。
それだけではありません。間室氏は「直接販売(ファーマーズマーケット)」と「加工販売」が不可欠であると言います。外国人居住者が増えることが見込まれる日本社会で、外国人を顧客とする新しい食材の開発、農業体験やグリーンツーリズムにも大きな可能性が秘められているのではないでしょうか。
「6次産業化」にも言及されました。「6次」とは「1次+2次+3次」ではなく「1次×2次×3次」。どの部分が欠けても6次産業にはならないという指摘に、蒙を啓かれた気がしました。
「経験と勘だけに頼った精農の技術」はITやAIの技術を駆使することで、さらに高度な技術に発展するはずであると確信をもって語られました。さらに、間室氏は、アメリカ労働統計局の最新の資料「今後10年間で給与が高い職業」の21位に「農場や牧場などのマネージャー」が入っていることを紹介されました。
課題
新たな農業需要の可能性と、安定的な生産と価格を維持できる農業のあり方について提案せよ。
課題の提示に際して、間室氏は”needs”と“wants”という言葉を出し、課題の検討にあたっては ”needs”よりは “wants” に着眼するよう指示されました。
“needs”は必要なもので、“wants”は欲しいものということです。イチゴの例で説明されました。ケーキ屋がケーキ用に求めるイチゴは“needs”、しかし、ケーキ用には出荷できずに過熟したイチゴの“もっとも美味しい味”を楽しむことは“wants”であると。
生活や生産上なくてはならないものが“needs”だとすれば、生活や人生を豊かにするために求められるものが“wants”だといえるのかもしれません。
2時間目(11月24日)
まずは、農林水産省編『知っている? 日本の食料事情~日本の食料自給率・食料自給率と食料安全保障~』と『ニッポン 食べもの力見つけ隊』を開き、先週の授業のおさらいです。
「日本の農業の問題点は何か?」「食料自給率を向上させるにはどうすればよいか?」「農業における「新しい需要」としてどんなものが考えられるか?」「安定的な生産と価格を維持できる農業とは?」。
超難問のはずですが、いつになく議論が盛り上がっているように見えました。ほとんどの学生がおそらくこれまで一度も真剣に考えたことのないテーマだけに、意外と新鮮だったのかもしれません。
3時間目(12月1日)
どのような“Wants”をとらえどのような農業の可能性が語られるのでしょうか?
G1の提案は「日本のワイン農家応援プロジェクト」。小規模な国内のワイナリーと連携し日本人向け200mlのワインボトルの開発や、日本ワインの海外市場を拡大するための方策が、具体的な根拠を示しながら、簡潔に発表されました。
G2は、高齢化、労働賃金の上昇、耕作放棄地、後継者不足といった問題に着眼、農業を気軽に体験できる窓口となる「農業委託派遣会社」を提案しました。給与の一部を現金と農作物の選択制にするというユニークなアイディアも語られました。「農業を題材としてテーマパーク」にも言及しました。
「次世代型ハウス農業」はG3。家畜の育成、肥料の採取、野菜の栽培、食品加工を一施設で行うという提案。二階で家畜を育て、一階で野菜づくりをする、自然エネルギーを活用した工場の概略図も板書されました。
G4の提案は「農業研究センター」。街中や地下で展開できる農業施設を開発し、企業に提案するというもの。問題は、すでに栽培されているものでない、別の何を栽培するかだと間室氏。
「お米カフェ」により米の消費量を向上させようというG5。米粉をつかった自家製アイスクリーム、米のライスプディング、お米でつくったタピオカドリンクやライスオーラなど、具体的なメニューも提案されました。
講評
最優秀に選ばれたのはG1の「日本のワイン農家応援プロジェクト」。「具体的であり実現可能性が大きいと感じられた。どのグループよりも現状がよく調べられていた」とは、間室氏の評言。
準優秀はG2の「農業委託派遣会社」。農業の間口を広げるための人材派遣会社という着想は斬新だが、やや具体性に欠けるうらみがあった。
間室先生からは、すべての提案に対してあたたかく丁寧なコメントを頂戴することができました。
謝辞
多忙なスケジュールの合間を縫ってご指導いただいた有限会社サニベルグリーンハウス代表取締役の間室照雄氏に深く感謝する次第です。
今回のセッションは、農林水産省関東農政局のご提案とご支援により実現することができました。1、3回目の授業には、関東農政局企画調整室から調整第2係長の山﨑勝実氏と皆川晴昭企画官にもご参観いただきました。また、グループワークの参考資料として『知っている? 日本の食料事情~日本の食料自給率・食料自給率と食料安全保障~』と『ニッポン 食べもの力見つけ隊』をご提供いただきました。ありがとうございました。