2024年11月12日(火)の14時30分から、板橋校舎多目的ホールにて、「2024年度秋季英米文学科講演会」が開催されました。
講演者は、東京大学名誉教授で翻訳家の柴田元幸先生、題目は「マーク・トウェインの子孫たち アメリカ文学・古典と現代のつながり」でした。
柴田先生は『ハックルベリー・フィンの冒けん』(研究社、2017)をはじめ、多くの作品を翻訳されています。今回の講演でも『ハックルベリー・フィンの冒けん』と、『ハックルベリー・フィンの冒けん』を逃亡奴隷ジムの視点から語り直した物語であるPercival EverettのJames(2024)を主に取り上げながら、その語りのあり方や英語の表現を比較検討し、それによってトウェインの作品を読むことからだけでは見えてこない、ジム=当時の黒人のあり方、作品における描かれ方の問題を論じていただきました。ジムは、トウェインの作品ではその語りの手法(文法的に「正しくない」英語での語り)から周辺的な存在とも言える形で表現されていますが、その一方で、そうした不正確な話し言葉が生き生きとした魅力としてみられ、そのように評価されてもきました。しかし、語り直されたこの作品(James)では、黒人同士では「普通」の英語で話しています。けれども、ジムたちは白人主人の前では「正しい"間違った"文法」で「話さなくてはならない」のです。そうした語りのあり方が単に周辺的な存在ではない人のあり方としてのジェームズという存在を浮かび上がらせています。現代ではこうした「語り直し」の手法で書かれた作品が特に多いとのことですが、語り直されなければならなかった物語の意味、原作との比較の意義がよく分かりました。
講演会後の質疑応答では教員や学生から講演内容について、さらには翻訳の方法論についてなど様々な質問がなされました。柴田先生はご講演同様、熱心に、そして深く、それぞれの質問に答えてくださいました。文学作品における語り口や言葉遣い、翻訳する際の注意点などとても興味深い論点や普段はなかなか知ることの出来ないことも質疑応答の中で教えていただきました。
「アメリカ文学」の古典である『ハックルベリー・フィンの冒けん』に対する新たな視点を教えて下さった柴田元幸先生に、この場を借りて感謝申し上げます。
講演会の後、休憩を挟んで、本学英米文学科の教員による研究紹介、ゼミナール紹介も併せて開催されました。またブースに分かれての各ゼミの現役ゼミ生や担当教員によるゼミ相談会、大学院生等による大学院紹介、留学相談会も開催されました。 多くの学生が参加し、熱心に先生方や先輩に質問し、また話に耳を傾けていました。
最後に、今回ボランティアとしてお手伝いいただいた3年生の皆さん、ゼミ説明会や大学院説明会に来ていただいたゼミ生の方々、大学院生の方々、ありがとうございました。