「問題解決学入門」は、「初年次教育としての企業連携型PBL授業の展開」として2017年度全学プロジェクト事業に採択されています。前半をProject A、後半をProject Bとし、両プロジェクトともに、4~5名のグループで、企業の提示する「課題(ミッション)」の解決に取り組みます。企業への提案を行い、企業からのフィードバックを得ることが柱となります。
第2回報告では、Project-Aの課題出しから最終提案までのようすをレポートします。
課題出し(Missionの提示)
4月28日、Project Aの課題出しが行われました。課題出しをご担当いただくのは、株式会社アートエンディングスの西本淳弥代表取締役です。西本社長は、学生時代におけるオーストラリアでの語学修練やイラクでの壮絶な体験、創業当時の苦労話をヴィヴィッドに語られました。ナジャフ(イラク)でモスクの葬儀を見て、葬儀を「悲しみを、安心と安らぎにかえる『究極の仕事』である」と感じたことが「葬儀」や「終活」という事業にかかわるきっかけとなっていると言います。西本社長は、全国に30数名しかいない「看取り師」のお一人でもあります。
「介護から葬儀まで、人生のエンディングを共に彩る」。アートエンディングは、2005年の創業です。創業当時、病院営業で苦戦を強いられるなか「タウンページ」に目を付け独自の営業を展開したエピソード等、数々の必死の企業努力にも言及されました。そして「何をするかよりも誰とするかが重要。No.2で組織は決まる」と経営哲学も一くさり。
西本社長は、学生に向けてこう語りかけました。70歳以上の高齢者のほとんどが「やって失敗した後悔」ではなく「やらなかった後悔」を口にする。「もっとチャレンジしておけばよかった」と。だから、学生は「自分がやりたいと思ったことに一心不乱に賭けることだ。他人と違う経験が、違いが価値を生む。学生時代にぜひ『語れる経験』を」。
会社概要、事業内容の説明の後に、以下のような課題が提示されました。
あなたは、アートエンディングの社長直轄の経営企画室に配属されました。経営企画室は、アートエンディングの新たな事業を検討するミッションを背負っています。アートエンディングのこれまでのビジネスを理解したうえで、越谷市で「ご利用者」と「ご家族」に安心を提供する新しい事業モデルを社長に提案せよ。
課題には、3つの条件が付されています。すなわち、事業の対象は、看取りを希望している本人、家族。地域包括ケアシステム、医療保険と介護保険を理解すること。予算上限は1000万円。
PBLにはうってつけの課題です。ところが、一月前は高校生だった学生たち。「地域包括ケアシステムとは何ぞや?」いきなりの難題に、学生のほとんどが、少々面食らっているようにも見えました。課題(Mission)に関する質疑応答の後、学生たちは、早速、課題解決のスケジューリングに取りかかりました。第一次提案は、5月19日です。
課題出しは、株式会社KSPさいたま支社の石井利典支社長、埼玉中小企業家同友会事務局の田ノ上哲美氏、中小企業家同友会全国協議会事務局の冨永択馬氏にご参観いただくことができました。
第1次提案
5月12日授業
5月12日の授業では、課題出し以後における各グループの活動報告(フィールドワークの振り返り)と、第1次提案に向けた最終確認が行われました。
第一次提案(中間報告)
西本社長と、ProjectBをご担当いただくKSPの石井支社長の見守るなか、第一次提案が行われました。
トップバッターは「T―ワン!!」。「介護保険タクシーサービス」。要介護1以上の高齢者を対象とする病院等への送迎サポートの提案です。西本社長からは「ニーズがどれだけあるか調査しているのか?」「ケアマネージャーの仕事を理解しているか?」「元気がないし、熱意が足りない!」等、辛口の指摘がなされました。
「T-MEEEN」の提案は「思い出整理サービス」。遺品整理の現状をしっかり調べた提案でしたが、西本社長からは次のような批判がなされました。「越谷市との関連をどんなふうに考えているのか?」「激戦分野であるが、どんな戦略があるのか? 営業のチャネルをどのように開拓するつもりか?」「地域包括ケアシステムの理解という『課題の条件』を満たしていないのではいか」。
「T―フルーツバスケット」は、小規模デイサービス(アートタイムズ)を提案。西本社長は「小規模デイサービスは氾濫状態だ。法改正により、そもそも新規事業として行えるかどうかが疑問!」と事業の再検討を指示しました。西本社長は「ビジネスは“busy”の名詞形であり『朝令暮改』は、ビジネスの世界では価値ある言葉だ」と言い、行き詰った場合は、躊躇せずスタート地点に戻り再考することの必要性を強調しました。
最後は「T-KKT」の「Door to Door sales」。高齢者を対象とする訪問販売の提案です。「着眼点はいい。高齢者に特化した訪問販売は比較的少ない。ただし、どうやって営業するのか?」と西本社長。
講評
西本社長は「今のままでは、四案とも事業化できない」と断言し、最終提案までに「事業を継続させるための戦略、競合他社の成功事例を調べあげること、損益分岐点をしっかり捉えること」と、明確な指示を出しました。
有意な人生は、学生のうちに、どれだけ他人と違う体験をするかにかかっている。そのためにも、学生という“隠れ蓑”をフルに活用してリサーチをしてもらいたい。
講評は次のような魅力的な言葉で締め括られました。「動いた距離が成長のバロメーターになる」「”違い“が価値を生む。小さな”違い“の積み重ねが成果になる」「ビジネスのきっかけは“小さな気づき”と“ワクワク感”だ」。6月2日には「価値のある発表」を期待しています。
西本社長の講評に頷きながらも、学生たちの表情には「悔しさ」が滲み出ていました。
「二週間後には西本社長をあっといわせてくだい」。細田先生から檄が飛んだところで、第一次提案は終了しました。
第二次提案(最終提案)
6月2日、60周年記念図書館地下1階AVホールにおいて、ProjectAの最終提案が行われました。
「T-ワン!!」は「介護タクシーα(アルファ)」の提案。対象は「一人で車の乗り降りができる、要介護1の方」に限定、一般の介護事業との差別化に知恵を絞りました。
「T-フルーツバスケット」の提案は「アートパトロール」。要介護1~5の独居高齢者を対象とする定期巡回サービス。具体的なサービス事例が示され、わかりやすい発表になっていました。
「T-KKT」の提案は、買い物難民化する高齢者向けの訪問販売事業。名づけて「アートvisit」。集客には『広報こしがや』等の広報誌を利用するということ。
「T-MEEEN」の「思い出整理サービス」は、同業他社の事業内容を徹底的に調べあげての再提案。遺品整理のための人材確保策、そして集客のための「葬儀セットプラン」が特徴。
最優秀の社長賞に選ばれたのは「T-ワン!!」。
西本社長からのメッセージ
先日は最終プレゼンお疲れ様でした。最後は時間が不十分でみんなに伝えたいことが中途半端になってしまったので、ここで伝えたことをメンバーと共有してくれたら嬉しいです!
まず、結果からみてトップを取ったTeamワンのみんなが一番動いていたのを感じました。「仕事は段取り八割」と言います。その段取りを当日のプレゼン直前まで早くきてやっていた姿に気合いを感じました。ジャッジメントを下すのは私なのでその目の前で最後の確認を行っていた姿勢は大きく影響しました。勿論、それ以外にうちを訪問したり、調べた内容の部分も考慮しています(^_-)。そして、謙虚に私から聞いたことからヒントを得て、カタチにしていました。ビジネスの世界で学生の時とは違いやってもいいことのふたつに「フライング」と「カンニング」があります。他より早く、知っている人から教えてもらう姿勢がまずはないと社会での競争に常に負けてしまうのです。これは決して忘れないでください。
これから起業したいと思っている人はいつでも私のところに相談にきてください。起業したいビジネスアイディアをいつでも聞いてあげます。私にもみなさんと同じ歳の頃、メンターがいました。その人のお陰で事業がスタートできたので今度は恩返しのつもりで皆さんと関わっていきます。
これから4年後、ほとんどの皆さんは卒業していると思いますが、学生という特権を無くしてから気づくより、それを利用して価値のある学生生活を送って欲しいと切に願います。
就職するときに「面接官に胸を張って語れる経験」をいかにできるかでまた将来は大きく変わってきます。人生はみな平等にチャンスが与えられているのです。チャンスに気づき、やるかやらないかは自分次第です。
私のように起業した人間は、自分を信じて気づき動いたから今があります。できない言い訳で固めるつまらない人生を送るのか、やるためにどうするという発想で前向きな毎日を送るのかそれも結局は全て自分次第なのです。
人とのご縁を大事にし、学生のうちに沢山の人に出会ってください。何か新しいことを始めるには必ずお金が必要です。しかし、お金を貯めることに一生懸命になるより、価値のあることに投資するのを忘れずにいてください。学生のうちの多少の失敗は大人になってからどうにでもなります。何もしない学生生活にだけはしないでください。道に迷ったとき、いつでも連絡をください。しっかり話を朝まででもいつまでも聞いてあげます。
最後に、楽しい時間をありがとう!!私も刺激をもらいました。まだまだこれからもチャレンジをして、日本を、世界を変えていこうと思います。未来は明るい!!自分がそれを必ず証明してみせます。また逢える日を楽しみにしています!!
まとめ
PBL型の授業で成果を出すには「チームで徹底的に考えさせる環境づくり」が不可欠ですが、そのためには、学生に取り組ませる「課題」が何よりも重要です。PBLの課題の条件をこんなふうに考えています。①学生が関心をもっていない問題であること。②予備知識もほとんどなければ、解決方法の見当もつかないような問題であること。③現実に解決を迫られている生の問題であること(演習のためにつくられた架空の問題ではないこと)。
西本社長にご提示いただいた課題は、3つの条件をすべて満たしており、PBLにふさわしい課題だったと思います。この課題に関しては、知識や情報量の点で主導権を取れる学生がおらず、しかも、どこから手をつけたらよいかもわからず、手当たり次第に調べ、話し合うしかないというある種の混乱状況に学生を追い込むことができたからです。さらに、条件や軸に縛られることにより、直感や思いつきではどうしようもない、問題解決の難しさを実感することができたのではないでしょうか。この一月半で大きく成長した学生たちが「Project B」では、どんな成果を出してくれるのか、今からワクワクします。
西本社長には、ご多忙の折、3回にわたって授業にご参加いただき、熱心に学生をご指導いただきました。また、学生の質問や調査にも快くご協力いただきました。記して深く感謝の意を表します(国際関係学部長 新里孝一)。
「Project A」の振り返り(6月9日)
最終提案を乗り切りほっとしていられるのも束の間。16日からは「Project B」がスタートします。9日の授業では、ProjectAの総括と、ProjectBのためのチーム編成が行われました。
授業の冒頭、細田先生から、学生の投票による最優秀賞が発表されました。最優秀に輝いたのは、社長賞と同じ「T-ワン!!」。西本社長に「仕事は段取八割」を想起させた「T-ワン!!」の頑張りは、他のチームの学生たちにも見えていたということでしょう。
細田先生から、あらためて「アートエンディング西本社長からのメッセージ」が紹介された後、発表内容と発表方法の振り返りのために、以下のように、多岐にわたってさまざまな事柄が指摘されました。「Project B」では同じ轍をふまないよう取り組んでもらいたいものです。
振り返りの後は、Project Bのためのチーム編成です。せっかく盛り上がった連帯感や軌道に乗りはじめたチームワークを「破壊する」のもこのプログラムの妙味。血も涙もありません。
ProjectBでは、新しいチームメンバーと、思い思いのリベンジを果たしてもらいたいと思います。大いに期待したいところです。
6月16日の授業では、株式会社KSP・さいたま支社の石井利典支社長による課題出しが行われます。KSPホールディングスグループは、警備業の有力企業です。