「問題解決学入門」(キャリア特殊講義)は、細田咲江先生の指導の下で、40名の1年生が、二つの企業の経営課題に取り組む授業」。後半セッション(Project B)報告の3回目は、最終報告会のようすをレポートします。
Project B 最終提案 (7月15日)
7月15日。梅雨の真只中。ギリギリまで議論とプレゼン準備を重ねた学生たちが、東松山図書館地下1階のAVホールにおいて、永島社長を前に、最終提案のプレゼンテーションを行いました。
一次提案のリベンジに燃えているのでしょうか、堂々として、一人一人の表情に、これまでは感じられなかった自信が漲っているようにも見えました。
これまでと違っていたのは、表情だけではありません。他のチームのプレゼン内容に関して積極的に質問をする姿が見られました。「切磋琢磨」を思わせる温かく建設的な質問も少なくなく、YELLの交換さながらの情景に、とても嬉しい気分になりました。
T-Sugar Less
「T- Sugar Less」の登場です。「優秀な孫の手助け」を「S(Selling Message)」に「高齢者健康促進事業」が提案されました。家事代行業務の延長線上に、マッサージから、話し相手、外出時や病院への付き添いまで、きめ細かなサービスを提供するのが「売り」だといいます。
T-Country
「あなたの部屋をキレイにします」は「T-Country」の「S」。家事代行事業とビルメン事業とのシナジー効果を狙った「家庭向け清掃事業」の提案です。
T-BIG6
「T-BIG6」の「S」は「いつまでも健康で美しいあなたへ・・・」。美容健康事業部を新設します。健康課では、戸別訪問による整体や食生活のアドバイスなどを、美容課では、家庭でのエステ、ネイル、メイクアップを手がけます。この事業は、美容用品や健康・家事用の消耗品、そして「高齢者にやさしいお弁当」なども販売するので「鉄砲玉産業」の条件も満たせるとのこと。「1時間3000円は『手軽軸』の発想。大企業には参入できない魅力を創造できれば6000円を取れる事業になるはず」と永島社長。
T-Metropolitan
「T-Metropolitan」は、高齢者や「美意識の高い奥様」をターゲットとする「宅配サービス」の提案。一次提案で指摘されたカタログ制作のコストを「お客様に作ってもらうカタログ」によりクリア。売上げ予測やコスト管理が、具体的な数字で示されました。
T-ボーダー姿勢
「T-ボーダー姿勢」の提案する新規事業は、ずばり「庭師」。個人住宅の庭づくり、害虫駆除薬剤の散布、除草、雨樋清掃、エクステリア工事(下請け)などを請負います。「まずは人から見られる庭から綺麗に!」が「S」。「いつも庭を綺麗にしておきたいが、体力的にかなわない」。持ち家の高齢者の意外な心理を衝いた事業かもしれません。
T-Sunflower
「100点満点で5点」と、一次提案を永島社長から酷評された「T-Sunflowers」。新提案は「Health サポート事業部」。「S」は「気軽に相談ヘルスケア☆健康サポートはアドバンス」。「高齢化」「共働き」「健康志向」といった社会情勢に配慮した、高齢者や高所得の女性を対象とする事業。計測器や測定器の持ち込みで行う「在宅健康診断サービス」や肩揉みや散歩などの「リラクゼーションサービス」により、「訪問・対話型による顧客ニーズに沿った健診を実現」することができると強調しました。
審査結果及び講評(永島社長)
永島社長が「最優秀」に選んだのは「T-ボーダー姿勢」の「庭師」。「BASiCS」が完璧である。資格なしで女性でもできる業務。持ち家の裕福な高齢者の心理を捉えている点も見事。発想力のあまりのすばらしさに「聞いた途端、鼻血が出そうでした!」とは永島社長の言。「よく調べた上で、新規事業化を検討してもよい。3年後にアドバンスサービスに入社すれば、約束したとおり『課長』で採用する」とも。
最優秀ではなかったものの、「T-Sunflowers」の提案も高い評価を得ました。初期費用や価格設定など「数字が効いている」「病院ぎらいの高齢者」がいることを考えれば、将来的には「在宅健康診断」の需要も少なくないはず。「今回は90点」と永島社長。「優秀」は「100点満点で5点」からの見事な「大逆転劇」といえましょう。
永島社長は、プレゼンを終えた学生に向かって「一次提案の厳しい指摘にもかかわらず、すべてのチームが、ここまで諦めずに、『4つのキーワード』を組み込んで考え抜いてくれたことに感動した。確実な成長を感じています」と、笑顔で熱く語りかけました。
「みなさんは私の『教え子』。みなさんからの質問があれば、私は、一生、責任をもって答えます」。最終報告会は、永島社長の温かく力強い言葉で締め括られました。
当日は、後期から「大学生のための県内企業魅力発見事業」をスタートさせる女子栄養大学と共栄大学の教職員の方々、埼玉県産業労働部就業支援課の金田剛主幹と石井悠史主査、埼玉中小企業家同友会事務局の田ノ上哲美主任、そして中間報告に引き続き、(株)アドバンスサービス千葉支店支店長の高橋優奈氏にもご参観いただくことができました。
最終授業で (7月22日)
7月22日は、問題解決学入門の最終授業。「学生の投票による優秀賞」が発表されました。投票による第1位は、宅配サービスの「T-Metropolitan」。細田先生から直々に賞品が贈られました。第2位は「Health サポート事業」の「T-Sunflowers」に。「いつまでも健康で美しいあなたへ・・・」の「T-BIG」が第3位と続きました。
優秀賞の発表の後に、細田先生によって、永島社長から学部長宛に送信されたメールの一節が読み上げられました。
「最終プレゼンの時には、学生たちの目が生き生きしていたのを今でも思い出します。課題は決して簡単なものではなく、学生たちもたいへんだったと思います。よくあそこまで、考えて、調べて、話し合ったものだと、貴学の学生のレベルの高さに感心しています。
やはり考えることは重要ですね。当社では、発生した問題を的確に捉えて、考えて、行動し、解決していく人材を『自主活性型人財』とよんでおります。人材から人財へ進化するということです。
学生たちには、息子に語りかけるように「厳しく、優しく」を心がけました。特に、つい正直に5点と言ってしまった「T-Sunflowers」の最終プレゼンでの逆転劇には感動すら覚えました。一次提案の帰り際に「どのあたりが5点だったのですか」と悔しそうな目で私に質問してきたのを思い出します。本当は「T-Sunflowers」の優勝にしたかったのですが、それ以上に『庭師』というショッキングな提案に心を惹かれました。
今回の授業で、学生たちが、職業観、就活への志、中小企業の魅力、起業への野望などに目覚めてくれると、地域社会や日本にとって明るい未来が待っていると思います。」
永島社長の言う「自主活性型人財」、細田先生の言う「プラスアルファのことができる人間」(細田先生)。いずれも「(人から指示されなくても)主体的、自律的に動ける人間」ということでしょう。ただ、一口に、問題を的確に捉え、解決すると言っても、容易なことではありません。「問題解決学入門」は「鳥羽口」にすぎません。これからも自覚をもって主体的に行動していかなければ、あっという間に履修前に逆戻りです。今の意識や意欲を維持したいのであれば、自ら進んでハードルの高いきびしい環境に身を晒すことが必要です。もちろん、誰も強制はしません。やるかやらないかは、みなさんの判断にかかっているということです。
まとめ
大学生になったばかりの40名の学生たちは、この三ヶ月の取り組みの中で、何を感じ、どんな気づきを得ることができたのでしょうか。学生にとって最大の関心事は、やはり「チームワーク」。『チーム振り返りシート<PROJECT-B>』には「チームワーク」をめぐるさまざまな思いが綴られていました。その一端を記しておきます。
チームワークのこと
・全員が集まれる機会をしっかりつくれるかどうかが肝心。話し合いの時間が少なすぎて、最後まで団結できなかった。
・チームワークで求められる「責任」の意味と重さがわかった。
・意見を主張するときに「根拠」を意識するようになった。
・全員が同じ方向を向いていることが大切だと感じた。
・チームのために自発的に「自分」を活かそうとした。
・協力するための環境づくりやモチベーションの統一など、チームワークということが少しわかった気がする。
・悪い点や弱点を遠慮なく指摘し合える雰囲気になった。
・チームワークだからこそ、自分ができることは何か、自分の役割を自分で見つけることが大事なのだと感じた。
・アイディアを出すには、チームの雰囲気が意外と大切だと感じた。
・与えられた課題としてではなく、自分たちの課題だと思って、一人一人が取り組むことが必要だ。
授業時間以外での学び
ところで『チーム振り返りシート<PROJECT-B>』を読みながら、「講座時間外での合計ミーティング回数と時間」という小さな欄に目が留まりました。数枚のシートをめくるうちに、「T-ボーダー姿勢」と「T-Sunflowers」の、圧倒的に優れた提案が出来した理由が、一瞬にしてわかったような気がしました。一覧表をご覧ください。
チーム名 |
回数 |
時間 |
T-ボーダー姿勢 |
10回 |
26時間 |
T-Sunflowers |
12回 |
22.5時間 |
T-Metropolitan |
5回 |
20時間 |
T-Country |
5回 |
15時間 |
T-Sugar less |
7回 |
5時間 |
T-BIG6 |
3回 |
1.5時間 |
永島社長に提案を高く評価された「T-ボーダー姿勢」と「T-Sunflowers」が群を抜いているのがわかります。高い評価を得た理由(勝因)について、「T-ボーダー姿勢」は「よい提案をすることを意識して全力を注いだ。提案のことを毎日考えていた」と書き、「T-Sunflowers」は「missionを全員で何度も確認し、共有し合った」と書いています。「『庭師』のような斬新なアイディアを思いつけるようになりたい」という感想がありましたが、羨望の的となった「斬新なアイディア」は、授業以外の場に自主的に集い、そこで営々と積み重ねられた26時間にも及ぶ議論の成果だったのです。
もちろん、無条件に時間をかければ成果が出るという保証はありません。けれども、時間をかけないところに成果が生まれるはずはありません。「斬新なアイディア」を羨み、ミーティングの効率や議論の深まりを言う前に、二つのチームが、なぜ、10回以上にわたって集まることができ、そこで25時間もの時間を共有するこができたのか、その原動力についてよく探索してもらいたいと思います。そこには「チームワークの秘訣」が、確実に潜んでいるはずですから。
授業の感想
最後に「事後アンケート」に記された、授業への感想を紹介しておきます。
・自分の意見が形になっていく嬉しさや楽しさ、達成感があった。
・金曜日3時限目が一週間の授業の中心でした。
・この授業には必ず自分の意見を発表するという仕事があった。人任せでは済まない場面がたくさんあり、積極的に動くことができた。
・チームワークの楽しさ、達成感、たいへんさ、自分の意見を組み立てる判断力と、それを発言する勇気を学んだ。
・自分という存在を認めてもらえる場所だった。
・他のチームと切磋琢磨して最終提案を出す授業。圧倒的に、やり甲斐がある。
・先入観や偏見は思考の幅に制限をかけてしまうということ。多様な価値観を持ち合わせた人が集まって一つのものをつくり上げていく過程で豊かな学びが生まれるのだということが実感できた。自分から動くことの大切さなど、座学では得られない深い学びだった。
おわりに
4月8日、前期授業の初日からはじまった問題解決学入門。一週間前に大学生になったばかりの学生に、グループワークで、二つの企業の経営課題に取り組ませるという、無謀とも思えるタフな取組でした。5月27日にはProject Aの、7月15日にProjectBの最終報告を終了し、22日の最終回を無事に迎えることができました。
「事前・事後アンケート」の比較からも、キャリア意識、学びの意欲や方向性(計画性)の点で、PBLを通じた学生の成長の跡をはっきりと確認することができます。今後、この授業に参加した学生たちが「Active Learning」を牽引する学生リーダーとして学内外のさまざまな場面で活躍し、やがては「自主活性型人財」(永島社長)に飛躍することを期待したいと思います。
謝辞
問題解決学入門の学生が例外なく口にするのは、二つのプロジェクトをやりきった達成感(解放感?)と「1年の前期に参加できてよかった」という優越感にも似た喜び、そして、何よりも「喜びや悔しさや楽しみを共にした」細田咲江先生への感謝の気持ちです。
勇気を出して発言した意見が取り上げられ、形になる喜びを実感できた学生がいます。授業外で10数回ものミーティングを重ねるほどに意欲的になれた学生たちがいます。この授業を通じて学生たちが得たもっとも大きな収穫は「自信」だといえるかもしれません。一人一人の学生の存在を承認する、細田先生の温かい眼差しと、配慮に満ちた言動の賜物です。改めて3ヶ月に及ぶご指導に感謝を申し上げる次第です。
問題解決学入門の授業運営にあたっては、学内外の多くの皆様にご協力いただきました。
以下に記して、深く感謝の意を表します。ありがとうございました。
CSリレーションズ株式会社の増田恭章代表取締役社長と株式会社アドバンスサービスの永島信之代表取締役には、それぞれに魅力的な課題出しで学生の意欲を喚起し、緊張感のあるProjectを創出していただきました。また、埼玉中小企業家同友会事務局には、課題出し企業の推薦ばかりでなく、Project A・Bのすべてのプレゼンテーションをご参観いただきました。
埼玉県産業労働部就業支援課の金田剛主幹と石井悠史主査、株式会社ベネッセi-キャリアの平山恭子氏、末吉謙太郎氏、五反田麗氏には、問題解決学入門の「前期実施」という本学部の要望を叶えるべくご尽力いただきました。
大東文化大学東松山キャリア支援課の酒井敏雅課長と川瀬龍彦氏には、埼玉中小企業家同友会との連絡調整に当たっていただきました。東松山教務事務室には、PBLの教室及び教員控室の利用に当たってご配慮いただきました。東松山図書館には、最終プレゼンのための理想的な環境をご提供いただきました。国際関係学部事務室の宮原輝子事務長には、本事業全般にわたる事務局を担当してもらいました。(国際関係学部長 新里孝一記)