9月29日から「企業と雇用」第1セッションがスタートしました。第1セッションのテーマは「人を雇うということ」。当然のことながら、就職活動では「雇われる側の視点」が強調され、学生は「雇われる側の利益」の観点から企業選びを行ないます。本セッションの狙いは、雇われる側の視点や利益の見方をより豊かにするために「経営者の視点」を理解してもらうことです。
講師には、昨年に引き続き、国際関係学部のOGで(地域言語はアラビア語です)、現在、社会保険労務士として活躍されている平真理氏をお招きしました。主著に『企業と会社経営の実務がよくわかる本』があります。
1時間目(9月29日)
なぜ社労士(社会保険労務士)になったのか? 大学卒業後に就いた仕事の経験から、みんなが気持ちよく働ける職場環境づくりにかかわりたいという思いが強くなったからだそうです。
社労士としてたくさんの企業の職場環境を見ている立場から、導入から、就活を半年後に控えた学生に向けたアドバイスが語られます。「大学の3、4年生で一生の仕事と思えるような仕事が決まることはまずないのではないでしょうか?」。そうだとすれば「好きなことを仕事にできるかどうかというよりは、自分が選んだ仕事を好きになれるかどうかが大事です」。好きなことに固執すると、むしろうまくいかないことのほうが多いのでは。
今好きなことではなく、好きになれる仕事を見つけるためには「何の仕事に就きたいかというよりは、どういう自分になりたいかを自問自答すべき。誰かに必要とされる自分、身の丈に合った社会貢献をしている自分を思い描いてみることではないでしょうか?
労働契約に関して。「労働契約とは何か?(労働契約法第6条)」「労働契約って何を決めるの?」「労働基準法には何が書いてあるのか?」。労使の契約に関する基本的な知識に関する説明です。労働基準法には労働者の権利が規定されていることは確かです。しかし、その前提に「職務専念義務」という労働者の当然の義務があることを忘れてはいけないと、平先生は強調されました。
「企業は一人雇うのにいくら払うのか?」という興味深いトピックについて。初任給20万円の社員一人を雇用するために、企業はいくら負担しているか? 「20万円では」と当たり前のように考え、社会保障費の企業負担をはじめて知った学生も少なからずいたのではないでしょうか。
「企業の社会的責任とは?」。企業はただ利益を追求するだけではなく、社会のために果たすべき責任を負っているという考え方が「CSR」。「商品やサービスを通じて社会的な課題を解決すること」「地域社会への貢献」「多様な人材の雇用」等々、さまざまなレベルの責任がありますが、もっとも重要な責任は、社員の生活を守り、地域社会を維持するために「事業を継続する責任」だと言います。
「ホワイト企業とブラック企業」。ソフトな側面とハードな側面、当然のことながらどんな企業にも両面があります。厳しい指導がただちにパワハラではない!ハードな労働環境であっても「自分を鍛えてくれる企業」とブラック企業を混同しないことが肝要。同じ仕事でも好きでやっているのと嫌々やっているのとでは負担感がまったく違うことも確か。メディアの情報を鵜呑みにして、ハードな企業に「ブラック」のレッテル貼り、みずから企業選びの選択しを狭めないよう注意してください。
平先生は「大企業に入りさえすれば安心という時代は終わっている」と言います。経営者が「会社は社員のもの」という確固たる信念をもって経営していることは「よい企業」の条件の一つではないでしょうか。そうした観点から「人本主義」を唱える坂本光司氏の『日本で一番大切にしたい会社』シリーズ(あさ出版)が、参考資料として紹介されました。
課題の提示
講話の後には、次週のグループワークの課題が提示されました。テーマは「起業をしよう!」。①役職を決めよう。②どんな製品(サービス)を提供する会社にするか? ③会社で新卒採用をすることになりました。どんな人を採用したいですか?
2時間目(10月13日)
10月6日が臨時休校になったため、グループワークとプレゼンテーションを1回の授業で行うことになりました。
「どんな製品(サービス)を提供する会社にするか?」「会社で新卒採用をすることになりました。どんな人を採用したいですか?」――二つのトピックをめぐるディスカッション。まずはブレインストーミング。「アルバイトをしていて、こういう人となら働きやすいなと感じたことはありますね」「実際の給料の二倍もの負担をしてでも雇いたいのはどんな人ですか?」「みなさんの会社を発展させるためにどんな人材が必要ですか?」平先生の問いかけをヒントに、採用したい人の条件が次々と列挙されます。
中盤からは、平先生のアドバイスを参考に、条件の絞込み作業です。あっという間にプレゼンの時間になりました。
プレゼンテーション
パン製造・卸の会社(G1)。採用の基準を、真面目さや思い遣り、困難に強くチャレンジ精神がある、偏見を持たず嘘をつかないといった人間性にかかわる特性、規則をしっかり守るという態度、効率性・環境適応性・柔軟性などの汎用的能力に三分類し、人間性を見るための手法についても言及しました。平先生からは、グルーピングの手順が評価されました。
旅行代理店を起業したG2は、インターンシップへの参加を採用の第1条件にあげました。また、旅行に興味を持っていることを確認するための面接時の質問も検討されたようです。同じく旅行代理店を起業したのはG6。「学生・U25・外国人」が顧客ターゲット。語学力、交渉力、自己管理力、ユーモアなど数々の特性が列挙されました。採用試験として、グループディスカッションでの選考を経て、最終的には「旅行のプラニング」と「添乗業務」を行わせるという実地型の方式が提案されました。
靴下専門のアパレル会社(G3)は、「誠実で積極的、親しみやすい人」を採用するために工夫を凝らしました。企業の業務を「接客」「事務」「企画」に分け、それぞれにもとめられる特性を具体的に検討しました。
若者向けのカフェを起業したG4と家電製品の研究開発会社を起業するG5では、コミュニケーション能力、新商品の開発のための発想力、リーダーシップを柱に検討がなされました。
最優秀はG6。「採用方法が具体的で、プレゼンも説得的。グループディスカッションがもっと楽しそうに見えました」と平先生。準優秀には、採用したい人の条件の検討の仕方が巧みだったG1と、報告者の説明がとりわけ明快だったG3が選ばれました。
後輩たちへ(平真理先生から)
就職活動を進める中で「限界」を感じる場面が必ずあると思います。しかし、その「限界」を嘆き引き摺っていては会社に入って勝負できません。学校と会社は別。1時間目の冒頭でも言ったとおり「自分が選んだ仕事を好きになれるかどうか」が大事です。そのためには「寄り道」をしたり「失敗」をすることも必要です。学生時代に取り返しのつかない失敗はありません。
「今、みなさんはすごくいい学校にいます」。残された学生生活を、自分に限界をつくらず有意義に過ごしてもらいたいと思います。
まとめ
「人を雇うということ」。本セッションにおいて、おそらく、ほとんどの学生がこれまで一度も本気で考えたことのない「採用する側の立場や採用の視点」の一端に触れることができたのではないでしょうか。それだけではありません。仕事選びに関しても有益なアドバイスをいただきました。「好きなことを仕事にできるかどうかというよりは、自分が選んだ仕事を好きになれるかどうかが大事です」。就職活動の途中で、躓いたり、壁を感じたときにぜひ思い出してもらいたいものです。
平真理氏には、昨年に引き続き、母校の教壇に立ち、熱心に後輩たちをご指導いただきました。本セッションには「自分にはどんな仕事が向いているのか」と悩む学生へのヒントが散りばめられていたように感じます。講話をきっかけに学生たちが大いに勇気づけられ、自信を持って就活に入っていけるに違いありません。記して感謝の意を表します。