PBLを導入した刷新版「企業と雇用」の2年目がスタート。
キャリア講座「企業と雇用」は、2016年度より授業のやり方を「1企業3回セット」のPBL型の授業に刷新しました。
1回目は企業の方から、仕事の内容、業界の魅力や将来性、そして業界に適した(あるいは業界に向かない)人物像などのトピックに関して率直にお話いただきます。これまでは、ここで、講話に対する学生の質問や意見をレポートにまとめて一区切りでしたが、刷新版はそれだけでは終わりません。講話のまとめで、学生に向けて「業界理解に関連する課題」をご提示いただきます。
2回目の授業では、学生が4人1組となって、企業から提示された課題を解決します。プチPBLといったところでしょうか。3回目の授業には、再び企業の方に参加していただきます。学生たちが、2回目の授業で取り組んだ課題解決の成果をプレゼンします。PBLの成果について、業界の観点から、きびしいコメントや批評をいただくことによって、学生の業界理解がさらに深まることが期待されています。
9月15日の初回授業には、東松山キャリア支援課の川瀬龍彦氏をお招きし、現4年生の内定状況など具体的な資料をもとに「3年生の今、何をなすべきか」についてお話いただきました。
特別講演Ⅰ「企業で働くこと―その魅力と覚悟-」
9月22日、8341教室において、刷新版「企業と雇用」の方向性や学びの指針を与えることを目的に、「企業で働くこと-その魅力と覚悟-」と題する特別講演が開催されました。講師には、三昌商事株式会社代表取締役の髙橋慎治社長をお招きしました。髙橋社長には、前年度の「企業と雇用B」の「商社の魅力と将来性」の課題出しをご担当いただきました。
就職状況は「売り手市場」とばかりに、学生を「早く!早く!」と煽り、情報過多と将来への不安がそうした傾向に拍車をかけているのではないか。しかし「それでも焦る必要はない」と髙橋社長。「何のために働くのか?」をしっかり考えるための「ちょっとした人生のヒント」が愉快な体験談を交えながら語られました。
「やらされ感」だけだと仕事は苦痛になるけれど「やったる感」ならば仕事は楽しみになる。一生涯に仕事に拘束される時間は「83,600時間」にも及ぶのだから、「やったる感」でなければ仕事は苦痛になるばかり。
髙橋社長は「20:60:20の法則」に言及しながら、学生たちにこんなふうに語りかけました。「優秀な人」とは「自分のやりたい仕事をしている人」のことではないか。企業における優秀の基準は、高等数学の能力などではなく「やったる感」で仕事ができているかどうかではないのだろうか?
こうした考え方を、髙橋社長はご自身の会社人生を三期に分けて「山あり谷あり」と振り返ります。もっとも勉強した「実務を学んだ時期」。名古屋、東京への転勤を経て、さまざまな人から相談が来て仕事が面白いと思えるようになり、結果、大型成約を獲得するにいたる「営業を学んだ時期」。そして三昌商事への転職、社長就任で倒産の危機にも瀕した「経営を学んだ時期」。それぞれの時期の成長実感や失敗による挫折体験に関する語りからは、そのまま「企業で働くことの『魅力』と『覚悟』」が浮き上がってくるようにも感じました。
講話の後半では、学生たちが聞きたいと思っている次のようなトピックを先取りして、さまざまな実例を盛り込んで回答していただきました。「『ブラック企業』を見分ける方法」「インターンシップには参加した方がよいかどうか」「学歴は大切か」「大学の成績は選考時に重視されるか」「転職はすべきでしょうか」「面接で好印象を与えるには」等々。
「語学能力は必須か」というトピックもありました。国際関係学部の学生にとって「語学力」は「売り」の一つ。社長の回答は大いに気になるところです。「語学はもちろん重要です。しかし、語学だけしかやっておらず、語学だけに強い人を企業はもとめていないということです」と髙橋社長。納得の行く説明だと感じました。
学生の感想
◆一生涯における仕事の拘束時間を聞いて、真剣に仕事を選ばなければならないと改めて思った。
◆就職活動に対する実感と安心感をもつことができた。
◆“やらされる感覚”ではなく“自分からやる”という気持ちがいい仕事に繋がるとわかったので、職業選びに役立てたいと思います。
◆“失敗と成功”のサイクルは仕事をするうえでは不可欠で、しかも大切だと思った。
◆「自然に勝るものはない」最大の収穫です。
◆自分の得意不得手を就職活動前にしっかり把握する必要性を痛感した。質疑応答の「余談」から多くを教えられた。
◆職業に関しては、経済的自立の観点からしか考えてこなかった。「楽しく働ける仕事」に就きたいと思った。
◆志望動機はあまり聞いていないなど、面接する側の率直な意見を聞くことができてよかった。
◆大学を卒業して最初に入った会社で人生が決まるものではないと思った。
◆順風満帆な人生がないことがわかりました。失敗しても挫けず、諦めず、努力を続ければ、必ずよい将来が待っていると思えるお話でした。
◆説明がとてもわかりやすかった。仕事を社会貢献のためと考えていた私には、仕事の魅力と仕事をするための覚悟を聞き、視野が拡がったような気がする。
まとめ
「優秀かどうかは何で決まるのか?」「数学の天才は優秀なのか? 少なくとも三昌商事では優秀な人材ではない。なぜなら、数学の天才がやり甲斐を感じたり、力を発揮する場がないから」。意外かつ的確な喩えに面食らった学生がいたに違いありません。天才や学力の高さが、そのまま「やったる感」に繋がるわけではなく、言い換えれば、高い学力さえあればどこにいっても「水を得た魚」になれるという保証はないということでしょう。「水を得た魚」とは「やったる感」で楽しく仕事ができる人間ということもできます。そんな企業人になるにはどうしたらいいのか? 就職活動を目前に控えた学生には、この特別講演をきっかけにぜひ真剣に考えてもらいたいと思います。
「会社人生、山あり谷あり」。企業で働くこととは、世界や日本の経済の動向や会社の浮沈など、個人の意志や能力だけではどうにもならない状況に晒されることを覚悟すること。それにもかかわらず、「やったる感」を失わず、ささやかな挑戦を繰り返しながら、少しずつ自分の成長を確認していくことが、企業で働くことの魅力の一つなのではないか。髙橋社長の熱い語り口に引き込まれながら、ふとこんなことを感じました。
超多忙なスケジュールの合間を縫って、特別講演をご快諾いただいた三昌商事株式会社代表取締役の髙橋慎治社長と、昨年に続き、連絡調整事務をご担当いただいた北原康衛氏に深く感謝する次第です。近い将来、たとえば本学部の「問題解決学Ⅰ」の授業で、魅力的な課題を軸にした高橋社長考案のプログラムによるPBL型授業を「学内インターンシップ」の魁として展開できることを期待したいと思います。
来週(9月29日)から、「企業と雇用B」の本格的なセッションがスタートします。第1セッションのテーマは「人を雇うということ」。講師は、社会保険労務士の平真理氏です。