2023年6月22日木曜日に、東松山キャンパス60周年記念講堂において、柳樂光隆さんによる講演会が開催されました。題目は、「21世紀以降の英国ジャズ隆盛の背景を移民から読み解く」。音楽評論家、DJ・選曲家、ラジオ・パーソナリティ、ライター講座講師、大学院講師など様々な音楽にまつわる様々なお仕事をされる柳樂さんは、100年の歴史を持つジャズの歴史の中の21世紀以降の発展に注目して、世界各地で現在活動しているたくさんのアーティストとインタビューし、ジャズの今の動向を紹介しています。今回の講演会では、イギリスを舞台とするジャズ音楽の発展について語ってくださいました。
講演の前半で「イギリスにおいてジャズは洋楽だった」(※ジャズはアメリカの音楽なので)という一文が大きく出てきました。これはどういう意味なのか?
ジャズは一般的にアメリカが発祥とされ、アメリカやカリブ海での労働力確保のためにアフリカから奴隷として連れて来られた人々を基盤とするアフリカ系アメリカ人コミュニティから生まれたとされています。他方イギリスでは、20世紀中頃、旧大英帝国植民地や英連邦だったカリブ海諸国(特にジャマイカやトリニダード・トバゴなど)から、労働力確保のための国策によってイギリスにやってきた移民(ウィンドラッシュ)らよって、イギリスに彼らのコミュニティが生まれ、そのコミュニティからイギリスの独自ジャズが生まれます。また、かつて植民地を抱えていたアフリカ諸国(特にナイジェリアや南アフリカ)からのイギリスへの移民、つまりUKアフリカンによっても独自のジャズが発達します。このような経緯で、時代的にはアメリカよりもずっと遅れてイギリスにやって来た「外国の音楽」という意味で、イギリスではジャズは「洋楽」ではあるものの、アメリカのジャズとルーツ自体は同じ。アフリカ×カリブ海×ヨーロッパ音楽を基盤に発達した、れっきとしたジャズということなのです。
柳樂さんは、ロンドンにおける音楽教育の動きに注目しています。例えば、プロのジャズ・アーティストが設立した《Tomorrow’s Warriors》という慈善団体は、マイノリティの人々、特に若者、黒人、そして、女性に無償で楽器を貸与しジャズの練習機会を与えています。ここで育った若いアーティストたちがロールモデルとなり、さらに若者たちを指導しているのです。こんな形で音楽教育を通じて育ったアーティストが現在のイギリスの新しいジャズ・ムーブメントを起こしていると言います。
今回の講演で、柳樂さんは、公開されている様々な動画で色々なジャズ・アーティストの活動を紹介して下さいましたが、それだけなく、柳楽さんご自身が現役のアーティストにインタビューして聞いた言葉をスライドで流し、私たちにアーティスト自身の「生の声」を届けて下さいました。
講演後の質疑応答では、教員・学生から多数の質問がありました。特に、UK音楽、日本発ゲーム、ヒップホップなど様々な音楽ジャンルを愛好する英米文学科生から、興味深い質問が挙がり、柳樂さんは一つ一つの質問にとても丁寧に答えて下さいました。
締めくくりに、今回受付に参加してくれたボランティア学生による花束贈呈がありました。柳樂さんから英米文学科生へのメッセージとして、「ぜひイギリスまで足を運んで現地の音楽に触れてきてください」という言葉を頂きました。
柳樂さんのご講演は、ジャズという切り口を通じて、イギリス独自の文化の多様性を私たちに気付かせてくれた、大変貴重な機会となりました。この場を借りて、柳樂光隆さんに心より感謝申し上げます。そして、今回ボランティアとして受付をしてくれた学生の皆さん、そして講演に参加して下さった学生・教員一人一人、また、残念ながら今回参加できなくてもこれを読んでくれた方々にも、感謝!
ありがとうございました。
なお、今回の講演で柳樂さんがお使いになったスライドは、DBポータルの学生用キャビネット内の「2023年度春季講演会」というフォルダにあるリンクから閲覧できます。